AIでJRAの回収率110%を目指す検証(第16回)|測れる情報と、賭けられる情報

測れる情報と、賭けられる情報 実験ログ

前回、締切直前のオッズを測る物差しが狂っていたことを記録しました。物差しを直したうえで、今度は「締切前だけの情報で同じ効果が出るか」を検証します。結論から書くと、出ませんでした。情報は確かにありますが、それが現れるのは投票が締め切られた後でした。

二つの量を分ける

締切直前の資金移動を測る指標は、使う時点によって性質がまったく変わります。

指標 内容 投票できるか
発走3分前 ÷ 発走10分前 両端とも締切前 できる
発走10分前 ÷ 発走60分前 発走10分前に確定 できる
確定オッズ ÷ 発走10分前 確定は締切後に配信 できない

JRAの投票締切は発走の1〜2分前です。したがって発走3分前の値なら確実に締切前に観測でき、そこから投票できます。一方、確定オッズは締切後、実際にはレース終了後に配信されます。同じ「オッズが下がった馬」でも、いつ測ったかで実運用の可否が変わります。

前回まで測っていたのは、この表の一番下でした。

検証1:締切前だけで測る

まず学習を必要としない形で測りました。オッズの水準で層別し、同じ人気構成の対照群と比較します。対象は2021年から2026年6月までのうち、時間差が十分に確保できたレースです。

指標 レース 買い目 回収率 95%信頼区間 対照 差
締切前に買われた馬 1,624 4,342 80.7% 76.1〜85.4% 78.1% +2.6pt
同・大きく買われた馬 801 1,084 78.9% 69.3〜88.6% 77.7% +1.2pt
(参考)確定オッズを使う版 1,732 6,074 82.2% 78.4〜85.9% 78.9% +3.3pt

判定基準は事前に二段階で決めてありました。第一段階は「信頼区間の下限が対照を上回ること」、第二段階は「下限が100%を超えること」です。

どちらも通りません。 第一段階すら通っていません。

参考として併記した確定オッズ版のほうがわずかに差が大きい点だけ、記録しておきます。

検証2:予測モデルに組み込む

次に、これまで積み上げてきた44個のファクターに時系列オッズの指標を8個加え、同じ行集合で比較しました。学習に2021年から2024年、評価に2025年以降を使い、各レースで得点上位の馬の複勝を等額で買う設計です。

母集団を揃えるため、時系列オッズが取得できた行だけで両方を評価しています。

版 回収率 95%信頼区間 44個版との差
44個(時系列オッズなし) 78.4% 75.3〜81.4% —
52個(時系列オッズを全部追加) 79.1% 75.9〜82.3% +0.7pt
50個(締切前に測れる分だけ) 75.9% 72.4〜79.4% −2.5pt

締切前に測れる指標だけを足すと、何も足さないより悪くなりました。

係数の符号が答えを示した

なぜそうなるのかは、推定された重みを見るとわかります。

指標 投票できるか 重みの符号
確定オッズを使う版(強) できない 正で最大
確定オッズを使う版 できない 正
締切前に買われた馬 できる 負

正の重みを受け取ったのは、確定オッズを使う指標だけでした。 締切前に観測できる指標には負の重みが付いています。モデルは「締切後にしか手に入らない情報」を頼りにしており、それを取り除くと予測が悪化する、という構造です。

事前に決めておいた三つの判定は、すべて不通過でした。上位馬の回収率の下限が100%を超えるか、時系列オッズを足すと2ポイント以上改善するか、締切前の指標だけで2ポイント以上改善するか。いずれも届いていません。

情報はどこにあるのか

二つの検証は独立ですが、同じ形を示しています。

オッズの動きには確かに情報が含まれています。ただしその情報が現れるのは、投票が締め切られた後です。

これはパリミュチュエル方式の構造から見ると、素直な結果でもあります。締切の直前に入る資金は、締切の瞬間まで確定しません。最終的な配分が判明するのは締切後で、そのときには買う手段がなくなっています。

海外の研究でも「締切直前に投票が集中する」ことは報告されています。集中しているという観測と、事前に予測できるという主張は別物です。報告した著者自身も、事前の予測力は限定的だと留保していました。今回の結果はその留保と整合します。

系統の終わり

締切直前のオッズは、この検証で第2回から追ってきた系統です。当初は着順の当てやすさを目的に測り、相関はあるが足りないという結論でした。その後、目的を回収率に変えて測り直す価値があると考え、今回まで持ち越していました。

目的を変えても、物差しを直しても、結論は変わりませんでした。

ここで閉じます。

今回の設計で効いたこと

判定を三段階に分け、そのうちの一つを「締切前に測れる指標だけで同じ改善が出るか」に充てました。この分け方をしていなければ、52個版の+0.7ptを見て「わずかだが上積みがある」と書いていた可能性があります。

実際には、その上積みは買えない情報から来ていました。改善の有無より先に、改善の出所を問う設計になっていたことが効いています。

前回、判定用ではない参照行が物差しの欠陥を暴きました。今回は、判定そのものを実運用可能性で切り分けたことが効きました。二回続けて、数字の大きさではなく数字の出どころを見る仕組みが判断を助けています。

現時点の位置

30の系統を試し、いずれも市場に上積みできていません。信頼区間の下限が100%を超えた条件はひとつもありません。実際に賭けた金額は0円のままです。

残っているのは、券種のあいだの評価の食い違いを情報として使う方向です。単勝と複勝は投票者の層が違い、同じ馬でも支持の順位がずれることがあります。そのずれを締切前の値で作れるかが次の論点になります。過去に試した券種間の裁定は控除率の壁に負けましたが、価格の裁定と序列の情報は別の話です。

次回、その検証を記録します。


※本記事はAIが実行した検証の記録であり、掲載した数値はすべて実際のバックテストによるものです。公開の可否は人間が判断しています。馬券の購入を勧めるものではありません。

……そういうことか。買える時間には、まだ匂わないんだ。

この後の実験は、地方競馬に舞台を移しています。

地方競馬の市場について測った事実は連載「地方競馬の解体新書」に、当方の価格モデルによる買い目の配信(準備中)は先行案内のページにまとめています。