地方競馬の解体新書(第6回)|枠順・脚質・馬場 — 外枠有利は実在するか、市場はそれを知っているか(中央競馬との比較・2021〜2025年)

枠順・脚質・馬場 地方競馬の解体新書

— 外枠有利は実在するか、市場はそれを知っているか(中央競馬との比較・2021〜2025年)

今回の問い

地方競馬の予想でよく聞く通念が二つあります。「小回りの砂の馬場では外枠が有利」と「地方は逃げが決まる」。どちらも経験則として広く語られていますが、数字で確かめたものは多くありません。今回はこの二つを、中央競馬と同じ定義で並べて確かめます。確かめたいのは三点です。その傾向は実在するか、どの場・どの距離で大きいか、そして市場はそれを既に織り込んでいるか。

データと方法

  • 対象: 中央(平地10場)と地方(帯広を除く13場)・2021年1月〜2025年12月・出走頭数10頭以上のレース。中央14,937レース・215,196頭、地方42,838レース・483,397頭。
  • 枠は1〜8枠。「内」は1〜3枠、「外」は6〜8枠。
  • 逃げ馬は「最初に記録されたコーナーで先頭だった馬」。1200m以下の短距離は1〜2コーナーの記録が無いため、最初に記録されたコーナーを使っています。
  • 市場が織り込んでいるかは二つの方法で見ます。一つは人気で層別すること(1番人気だけ、4〜6番人気だけ)。もう一つは、オッズから計算した市場の確率に「場×距離帯×枠」の情報を足して、翌年の予測がどれだけ良くなるかを測ること(第2回と同じ物差し)。
  • 回収率はすべて確定オッズによる「地図」で、買い目の主張ではありません。

1. 外枠有利は実在する — 地方でも、中央でも

枠 中央 全馬の3着内率 中央 1番人気の勝率 地方 全馬の3着内率 地方 1番人気の勝率 地方 市場の含意確率
1枠 19.9% 30.6% 24.7% 40.5% 8.24%
2枠 20.0% 30.2% 26.1% 41.6% 8.52%
4枠 20.5% 31.6% 26.0% 40.8% 8.67%
6枠 21.8% 32.8% 26.3% 42.2% 8.72%
7枠 21.3% 34.0% 27.3% 42.8% 9.16%
8枠 21.4% 36.0% 28.9% 44.8% 9.68%

地方では1枠から8枠へ3着内率が 24.7% → 28.9% と上がります。外枠有利は実在します。意外なのは中央でも同じ向きが出ていることで、1番人気の勝率は1枠 30.6% に対して8枠 36.0% です。

ただし右端の列を見てください。市場がオッズで表現している各馬の確率(含意確率)も、1枠 8.24% → 8枠 9.68% と外枠ほど高い。市場は枠を織り込んでいます。 4〜6番人気だけに絞ると、枠による3着内率の差はほぼ消えます(26.0〜27.9%)。

市場の確率に「場×距離帯×枠」を足したときの予測の改善は、中央で −1.9、地方で +0.5(いずれも1万分の1の単位)でした。枠は、両市場とも「市場に無い情報」ではない、と読めます。

2. どこで大きいか — 小回りの短距離

場・距離帯 内枠(1〜3枠)3着内率 外枠(6〜8枠)3着内率 差
名古屋 1200m以下 19.3% 31.9% +12.6pt
園田 1200m以下 22.1% 30.9% +8.7pt
船橋 1300〜1500m 21.3% 28.6% +7.3pt
門別 1200m以下 22.9% 29.8% +6.9pt
船橋 1200m以下 22.5% 29.0% +6.5pt
名古屋 1300〜1500m 23.6% 29.1% +5.5pt
大井(全距離) 22.5〜24.7% 22.2〜23.4% −0.3〜−1.4pt
川崎(全距離) 25.5〜28.4% 23.5〜25.0% −2.0〜−3.3pt

外枠有利は小回りの短距離(名古屋・園田・門別・船橋の1200m以下)に集中しており、+7〜13ポイントに達します。一方、大井や川崎のような広いコースでは差が無いか、むしろ内枠寄りです。「地方は外枠有利」と一括りにするのは正確ではなく、場と距離で正反対になる、というのが数字の示すところです。馬場状態(良〜不良)で枠の差は変わりませんでした。

3. 逃げ馬は地方で27%勝つ — 短距離では34%

距離帯 中央 逃げ馬の勝率 / 3着内率 地方 逃げ馬の勝率 / 3着内率
1200m以下 25.5% / 51.0% 33.8% / 61.7%
1300〜1500m 17.1% / 39.3% 27.2% / 54.0%
1600〜1900m 17.0% / 38.0% 23.1% / 47.7%
2000m以上 13.4% / 31.7% 21.4% / 43.6%

逃げ馬の勝率は、どの距離帯でも地方が中央を6〜10ポイント上回ります。短距離では3頭に1頭が逃げ切っています。

馬場状態別(ダート)では、中央が良 19.9% → 不良 23.5%、地方が良 26.9% → 不良 30.2% と、両市場とも馬場が悪くなるほど逃げ馬が勝ちます。

では市場は逃げを知っているのでしょうか。逃げ馬が1番人気に支持されている割合は中央 12.0%、地方 21.7%。そして逃げ馬が1番人気だったときの勝率は、中央 48.4%(全体の1番人気は 32.5%)、地方 60.5%(同 42.1%)でした。市場は逃げ馬を強く買っており、その本命はさらに固い。逃げは織り込まれた上で、なお勝っている、と読めます。ただし「逃げ馬」はレース後に分かる脚質で、事前に「この馬が逃げる」と当てる問題は別です。

4. 分かったこと・分からないこと

分かったこと
– 外枠有利は実在する。地方でも中央でも、1枠から8枠へ3着内率・1番人気の勝率が上がる。
– ただし市場は枠を織り込んでいる。人気で層別すると差はほぼ消え、市場の確率に枠を足しても予測は改善しない。
– 地方の外枠有利は小回りの短距離(名古屋・園田・門別・船橋の1200m以下)に集中し、大井・川崎には無い。馬場状態では変わらない。
– 地方の逃げ馬は 27%(短距離 34%)勝つ。馬場が悪いほど勝つ。市場は逃げを強く買っており、逃げ馬の本命は 60% 勝つ。

分からないこと
– 事前に逃げる馬を当てられるか(過去の脚質から予測できるか)は本稿の外です。
– 中央の外枠有利が芝とダートで違うかは分けていません。

予想への示唆

  1. 「外枠有利」を狙い目として使う根拠は弱いようです。市場が既に織り込んでおり、人気で層別すると差が消えます。
  2. 場と距離で向きが逆になります。名古屋・園田・門別・船橋の短距離では外枠、大井・川崎では内枠寄りと、場ごとに読み替えるほうがよいと思われます。
  3. 逃げ馬は地方で強く、馬場が悪いほど強い。ただし市場も知っているので、「逃げそうな馬」を見つける精度が勝負になりそうです。

次回: 「騎手・調教師・馬主」— 地方の寡占はどれほどか、成績は持続するか、乗り替わりは方向で読めるか。

外枠の話なら、市場はとっくに知っていたか。

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