地方競馬の解体新書(番外編)|複勝の「転がし」の算術:1,000円を10,000円にする挑戦と、目標を下げても勝ちにならない理由

複勝の「転がし」の算術 地方競馬の解体新書

地方競馬の解体新書番外編第2部

1,000円を10,000円にする挑戦と、目標を下げても勝ちにならない理由(地方競馬・229開催日の実際の払戻で模擬)

今回の問い

「転がし」は、当たった払戻を全額そのまま次のレースに賭け続ける買い方です。元手が小さくても、当たり続ければ大きな額になります。1.2〜1.6倍ほどの複勝なら当たる確率も高いので、「当たりそうなレースだけを選べば、1,000円を10,000円まで転がせるのではないか」という発想は自然なものです。

今回はこの発想をそのまま実験にしました。確かめたいのは次の3点です。

  1. 複勝1.2〜1.6倍の馬は、どのくらいの確率で3着内に来るのか。
  2. レースを選ぶことで、的中率を損益分岐より上に押し上げられるのか。
  3. 目標を10倍から5倍・3倍・2倍に下げると、結果はどう変わるのか。

判定の規則と予測は、測る前に文書にして固定しました。

先に算術

転がしの結果は、測る前にかなりの部分が算術で決まっています。

払戻の倍率を o、的中率を h とします。全額を賭けて続けて当てると、元手は1回ごとに o 倍になります。1,000円が10,000円に届くまでに必要な連続の的中は、次のとおりです。

複勝の倍率 10倍に届くまでの連続の的中 1回の損益分岐の的中率(1÷倍率)
1.2倍 13回 83.3%
1.4倍 7回 71.4%
1.6倍 5回 62.5%

1周が成功する確率は、的中率を必要な回数だけかけた値です。たとえば1.4倍で的中率が75%なら、0.75の7乗で約13%になります。

もう一つ大事なのは期待値です。転がしの1周の期待値は、1回あたりの回収率を回数分かけた値になります。 1回あたりの回収率が90%なら、7回の転がしでは0.90の7乗で約48%です。転がしは、控除を回数分かける買い方だと言い換えられます。したがって、転がしが黒字になる条件は、1回ずつ買って回収率が100%を超える選び方があることと同じです。

データと方法

  • 対象は、ばんえいを除く地方競馬です。期間は2025年7〜12月と2026年7月1日〜8月14日の229開催日(8,768レース)です。
  • 値段は、発走の約3分前に発表されていた複勝オッズです。複勝オッズは「1.3〜1.8倍」のように幅で表示されるため、下限と上限の中央を使いました。これは確定オッズではなく、実際に買える時点の値段です(確定オッズで計算すると成績が高く見える理由は第10回で説明しています)。
  • 払戻は、主催者が公表した実際の複勝払戻金です。
  • 主な対象は、複勝が3着まで払われる8頭以上のレースです。
  • 転がしの模擬は次の規則で行いました。
  • 時刻順に、条件に合う次のレースへ手元の全額を賭けます。
  • 馬券は100円単位なので、端数は手元に残します。
  • 払戻を受け取ってから次に賭けるため、前のレースの発走から10分以上あとのレースだけを対象にします。
  • 手元が目標額以上になったら成功として1,000円に戻し、外れて手元が100円未満になったら失敗として1,000円から再開します。日をまたいでも続けます。

1. 複勝1.2〜1.6倍の馬は、6割しか来ない

複勝の倍率(中央) 点数 的中率 払戻の平均 損益分岐の的中率 回収率
1.2〜1.6倍の全体 9,239 61.6% 130.5円 76.6% 80.5%
1.2倍台 2,073 70.0% 120.1円 83.3% 84.0%
1.3倍台 1,838 65.1% 126.1円 79.3% 82.0%
1.4倍台 2,147 60.5% 132.1円 75.7% 79.9%
1.5〜1.6倍 3,181 55.0% 141.1円 70.9% 77.6%

複勝1.2〜1.6倍の馬が3着内に来たのは61.6%で、損益分岐の76.6%に15ポイント届きませんでした。回収率は80.5%です。倍率の低い帯ほど回収率はわずかに高くなりますが、どの帯も損益分岐の的中率に届いていません。

「1.2〜1.6倍の複勝はほぼ来る」という感覚とは、かなり離れた数字です。第11回で見たとおり、単勝1.3倍以下の1番人気は3着内率が92.6%に達します。しかしそうした馬の複勝は1.0〜1.1倍ほどで、今回の1.2〜1.6倍の帯には入りません。本当に固い馬は、市場がすでに1.0〜1.1倍の値段を付けています。 1.2〜1.6倍は、市場が「6割ほど来る」と見ている馬の値段だと読めます。

2. レースを選ぶと的中率は上がるが、払戻も薄くなる

次に、締切前に分かる情報だけでレースを選び、的中率をどこまで上げられるかを試しました。選び方は測る前に7通り決めてあります。代表的なものを示します。

選び方(1.2〜1.6倍の中で) 点数 的中率 払戻の平均 損益分岐の的中率 回収率
選ばない(全体) 9,239 61.6% 130.5円 76.6% 80.5%
その馬が単勝1.5倍以下の1番人気 245 78.4% 112.3円 89.0% 88.0%
2番人気との差が大きい、抜けた1番人気 330 76.1% 114.8円 87.1% 87.3%
8〜9頭の少頭数 2,738 62.9% 128.1円 78.1% 80.6%
1番人気が残りやすい5場(金沢・笠松・門別・佐賀・高知) 3,558 63.2% 129.6円 77.2% 81.9%
締切前に買われている馬 6,027 59.1% 133.3円 75.0% 78.8%
1.5倍以下の1番人気で、抜けていて、締切前に買われている 54 81.5% 113.9円 87.8% 92.8%

選び方によって、的中率は61.6%から81.5%まで上がりました。ところが的中率が上がった集合ほど払戻の平均は112〜114円に下がり、損益分岐の的中率も87〜89%に上がっています。的中率を上げた分だけ、市場が値段を下げていたということです。

7通りすべてで回収率は100%を下回りました。複数の選び方を試したことを割り引いた統計的な下限でも、最大で79.8%です。今回の選び方の中に、1回あたりで損益分岐を超えるものはありませんでした。

3. 10倍を目指す転がしは、60周に1周しか成功しない

選び方 終わった周 成功 成功率 成功までの的中(中央) 周の回収率
1.2〜1.6倍の全体 1,855 31 1.7% 8回 21.0%
単勝1.5倍以下の1番人気 54 1 1.9% 16回 21.1%
抜けた1番人気 79 0 0% 成功なし 1.8%
8〜9頭 573 8 1.4% 10回 18.4%
5場 763 8 1.0% 8.5回 13.0%

1,000円から10,000円を目指した転がしは、1,855周のうち31周しか成功しませんでした。周の回収率は21.0%で、1,000円を入れるたびに平均で約790円を失う計算です。

この数字は、先に示した算術とよく合います。1回あたりの回収率80%を約8回かけると0.80の8乗で約17%になり、実測の21%に近い値です。的中率の高い「抜けた1番人気」は、払戻が薄いため10倍までに必要な的中の回数が増えました。その結果、79周で成功は0周でした。

4. 目標を下げると損は小さくなるが、勝ちにはならない

目標を10倍から下げた結果が次の表です(1.2〜1.6倍の全体)。

目標 成功率 成功までの的中(中央) 周の回収率
2倍(2,000円) 21.8% 3回 51.9%
3倍(3,000円) 10.6% 4回 38.7%
5倍(5,000円) 4.6% 7回 28.0%
10倍(10,000円) 1.7% 8回 21.0%

目標を2倍に下げると、5周に1周は成功するようになり、周の回収率も51.9%まで上がりました。それでも、1,000円を入れるたびに平均で約480円を失います。目標を下げると必要な連続の的中が減るので、控除をかける回数が減ります。そのため損は小さくなりますが、1回あたりの回収率が80%である限り、どの目標でも100%は超えません。

5. 転がしが勝ちになる条件

では、転がしが勝ちになることはあるのでしょうか。算術のとおりなら、1回あたりの回収率が100%を超える選び方があるときに限られます。これを当方の価格モデルで選んだ複勝でも確かめました。

選び方 1回あたり 2倍 3倍 5倍 10倍
当方の価格モデルで割安と出た2〜3番人気 4,924点・的中56.0%・84.1% 74.3% 64.5% 51.9% 45.8%
当方の買い目の一部(複勝) 677点・的中42.7%・104.3% 105.7% 107.0% 99.7% 128.2%

2倍〜10倍の欄は、その目標で転がしたときの周の回収率です。

1回あたりが84.1%の選び方は、転がすと目標に応じて74%から46%に下がりました。1回あたりが104.3%の選び方は、転がすと周の回収率も100%前後から上になり、10倍の目標では128.2%でした。転がしは、1回あたりの回収率が100%を下回れば損を広げ、上回れば差を広げます。 仕組みそのものは、損益の向きを変えません。

ただし、後者の数字には2つの注意があります。この期間は、当方がモデルを選ぶときに使った期間を含みます。また、転がしは振れ幅が大きく、10倍の目標での周の回収率の区間は84〜178%と、100%をまたいでいます。この数字から「勝てる」とは言えません。登録後の期間で1回あたりの回収率が100%を超え続けるかどうかを、前向きの記録で確かめているところです。

分かったこと・分からないこと

分かったこと

  • 地方競馬の複勝1.2〜1.6倍(発走約3分前の値段)の馬は、3着内率61.6%・回収率80.5%でした(9,239点・229開催日)。損益分岐の的中率76.6%に届いていません。
  • 締切前に分かる情報でレースを選ぶと、的中率は最大81.5%まで上がりました。しかし払戻も同じだけ薄くなり、7通りの選び方すべてで回収率は100%を下回りました。
  • 1,000円を10,000円まで転がす挑戦は、1,855周のうち31周(1.7%)しか成功せず、周の回収率は21.0%でした。
  • 目標を2倍に下げると成功率は21.8%に上がりますが、周の回収率は51.9%でした。

分からないこと

  • 今回試した7通り以外の選び方で、1回あたりの回収率が100%を超えるものがあるかは未測定です。
  • 複勝1.0〜1.1倍の本当に固い馬で転がした場合は、未測定です。100円の元返しがあるため損は小さくなると考えられますが、目標に届くまでの回数は大きく増えます。

予想への示唆

  1. 「当たりやすい複勝を転がす」買い方は、控除を何度もかける買い方と考えられます。1回ずつ買って負けている買い方は、転がすとさらに大きく負けます。
  2. 的中率を上げるレース選びは、払戻を下げる選び方にもなっていることが多いと考えられます。的中率だけでなく、損益分岐の的中率と並べて見るほうが実態に合います。
  3. 転がしを試すなら、まず1回ずつ買ったときの回収率を確かめるのが先だと考えられます。そこで100%を超えていない限り、目標や元手をどう工夫しても結果の向きは変わりません。

いかん。転がすたびに、控除をおかわりしていた。

当方の価格モデルによる地方競馬の買い目は、締切3分前にメールで届けるサービスとして準備しています。前向き検証の公開方法と先行案内はこちらのページにまとめています。