地方競馬の解体新書(第14回・第2部)|回収率はどこまで信じられるか:点数と区間、12年の前向き検証、先読みの漏れ、一度だけ開ける保留期間

回収率はどこまで信じられるか 地方競馬の解体新書

地方競馬の解体新書第14回第2部

点数と区間、12年の前向き検証、先読みの漏れ、一度だけ開ける保留期間(地方競馬・2013〜2026年)

今回の問い

「回収率120%」「3年連続プラス」といった数字は、競馬の予想の世界にあふれています。第2部ではここまで、地方の市場で数字がどこまで信じられるかを測ってきました。今回はその締めくくりとして、回収率という数字そのものを点検する手順を扱います。材料は当方自身の検証で、うまくいったように見えた数字が崩れた場面をそのまま並べます。

確かめたいのは四点です。何点買えば差を証明できるのか、良い年が一つあることに意味はあるのか、確定オッズで作った数字はどれだけ上振れするのか、そして一度だけの答え合わせで強い結果が出たら信じてよいのか。

データと方法

  • 材料は当方が記録している四つの検証で、どれも地方競馬が対象です。
    1. 点数と差の大きさ: 当方が運用している作り方の日ごとの損益のばらつき(2026年7月28日〜9月13日・47開催日・買い目が0の日も1日として数える)から、150開催日で証明できる最小の差を計算しました。
    2. 12年の前向き検証: 2013〜2024年・136,477レース・1,415,390頭。確定オッズによる計算(地図)です。
    3. 先読みの漏れ: 2025年10〜12月と2026年7月1日〜8月14日の134開催日・4,377レース。複勝1点・実際の払戻で計算しています。
    4. 保留期間の答え合わせ: 2025年7〜9月の92開催日・2,855レース。締切3分前の値段(判定時点)で当てています。
  • 四つのうち1・2・4は、測定の前に判定の基準を文書に固定してから測りました(事前登録)。
  • 区間は「片側95%の下限」で示します。真の回収率がこの値を下回る可能性は5%程度、という意味の下の端です。同じ日のレースは互いに独立ではないため、当方は原則として開催日をまとまりにして区間を計算しています。
  • 2026年1〜6月の数字は、この記事では一つも使っていません。

1. 点数の壁:150開催日で証明できる差は8ポイントから27ポイント

1点100円の馬券は、外れれば0円で、当たれば数百円から数千円が戻ります。単勝では1点あたりの払戻の標準偏差が 4.75(100円を1とした単位)あり、100円の賭けの結果が平均の周りで約475円ずつ揺れることを意味します。複勝では 1.89 です。

N点を平均すると、この揺れは √N 分の1 に縮みます。ある差を「片側95%の基準で、しかも8割の確率で見つけられる」ようにするには、平均の揺れのおよそ2.5倍の差が必要です。ここから必要な点数の目安が出ます。

必要な点数 ≈(2.5 × 1点の揺れ ÷ 証明したい差)²

単勝を広く買って10ポイントの差を証明したい場合、(2.5 × 4.75 ÷ 0.10)² でおよそ14,000点が必要です。150開催日で割ると1日93点になります。

1点の揺れ 典型的な買い方 差5ポイント 差10ポイント 差20ポイント
0.70 複勝・上位人気に寄せる 8.1点/日 2.0点/日 0.5点/日
1.90 複勝・全体 59.5点/日 14.9点/日 3.7点/日
3.00 単勝・上位人気に寄せる 148.4点/日 37.1点/日 9.3点/日
4.75 単勝・全体 372.1点/日 93.0点/日 23.3点/日

(表は地方の150開催日で計算しています。中央競馬で50開催日を使う場合は、すべて3倍の点数が要ります。)

当方が実際に記録している作り方に当てはめると、次のようになりました。

作り方 1日の点数 150開催日で証明できる最小の差 区間
単勝を広く買う 17.79点 22.5ポイント 15.3〜28.7
単勝を中穴に絞る 2.66点 27.0ポイント 16.7〜36.9
複勝を上位人気に寄せる 3.02点 8.3ポイント 5.8〜10.6

単勝を広く買う作り方は1日18点近くと量があるにもかかわらず、22.5ポイント未満の差は半年では証明できません。1点の揺れが7倍なら必要な点数は49倍になるため、量で揺れに勝つのは難しいといえます。

さらに二つの補正が必要でした。一つは、近い日の買い目が互いに連動していることです。週をまとまりにして計算し直すと、複勝の作り方の 8.3ポイントは 12.1ポイントに広がりました。もう一つは、比べる相手の問題です。「片側95%の下限が100を超える」ことを150開催日で示すには、真の回収率が100に最小の差を足した水準、つまり108〜112%程度以上ある必要があります。対照を8ポイント上回ることと、100%に対して8ポイントの黒字を出すことは別の話です。

2. 良い年が一つあっても何も証明しない:12年の前向き検証

当方のモデル(オッズを使わない指数を含む)を、2013〜2024年の12年に当てました。12年を4つの区切り(2013〜15年・16〜18年・19〜21年・22〜24年)に分け、各区切りの直前の年までのデータだけで学習して次の3年に当てる、前向きの方式です。選び方と判定の基準は測定の前に固定しました。回収率は確定オッズによる計算ですが、単勝では判定時点の値段に直したときの差は1ポイント未満でした。

年 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024
回収率(%) 104.65 113.65 104.94 92.78 99.81 87.16 95.33 106.14 87.01 86.94 84.91 77.48
点数 2,901 3,193 3,174 2,948 2,907 2,928 2,850 2,813 2,622 2,858 2,654 2,899

12年通算では 95.41%(34,747点・1日8.0点・的中率10.4%・下限92.07)でした。判定時点への補正を加えて100%を超えたのは12年中5年で、補正前なら4年です。事前に決めた三つの判定基準(通算の水準・年ごとの安定・対照との比較)は、三つとも不合格でした。

2014年だけを見れば、約3,200点で113.65%という立派な成績になります。2020年も、3年続けて100%を割った後に106.14%へ戻しています。どちらの年も、その年だけを切り出して発表すれば「勝てるモデル」に見えたはずです。12年を並べると、2013〜15年は104.65〜113.65%、2021〜24年は77.48〜87.01%と、優位は時間とともに薄れていました。

同じ期間に全馬の単勝を買った場合の回収率は 69.83%(1,415,390頭)で、毎年66〜71%の範囲から動いていません。市場全体の甘さが変わったのではなく、モデルが拾っていた歪みのほうが薄れたと読めます。2020年以降の地方のネット販売の拡大で売上が増え、市場が賢くなった可能性がありますが、この仮説は未測定です。

3. 先読みの漏れ:確定オッズで作った入力が回収率を押し上げた事例

当方の検証の中で、ある種類のレースに絞った複勝の規則が 110.98%(1,753点・的中率32.6%・下限100.75)を示したことがあります。下限が100を上回る数少ない結果で、作り直した土台で測り直しても同じ値が出ていました。

ところが、モデルの入力の一部(そのレースで市場が各馬をどう評価しているかを表す値)を、確定オッズから作っていました。確定オッズは締切の後に決まる値で、馬券を買う時点には存在しません。そこで、同じ入力を判定時点の単勝オッズから作り直し、選び方・期間・母集団はそのままにして測り直しました。二つの入力の相関は 0.9819 で、ほとんど同じ値に見えます。

確定オッズで入力を作った場合 判定時点のオッズで作った場合
絞り込んだレース群 110.98%(1,753点・的中率32.6%・下限100.75) 83.07%(1,862点・的中率15.3%・下限70.54)
選別全体 92.90%(10,738点・的中率40.5%・下限89.51) 73.83%(11,550点・的中率25.4%・下限69.87)

相関0.98の入力の差で、選ばれる馬は大きく入れ替わり、的中率は半分以下になりました。選別全体の 73.83% は地方の複勝の控除率から見込まれる水準とほぼ同じで、判定時点の条件ではこの選別に優位が無いことを示しています。確定オッズには締切後に入るお金の情報が含まれており、それが結果の一部を先取りしていたと考えられます。

当方はこの規則を実際の購入には載せませんでした。この漏れに気づくまでに、同じ土台の上に四つの測定を積み上げていたことも記録に残しています。対策は考え方としては単純で、「その情報は買う時点で手に入るか」を入力の一つひとつについて確かめ、判定時点で見える値だけで入力を作ることです。オッズを入力に使わないモデルであれば、この種のずれは原理的に起きません。

第8回では、確定オッズそのもので買えたとしても複勝の回収率は 89.5% にとどまることを見ました。確定オッズは「買えない値段」であり、それを使った計算は地図にはなっても買い目の証拠にはならない、というのが当方の立場です。

4. 保留期間は一度だけ:強い答え合わせの後に来た弱い期間

保留期間とは、モデルの開発に一切使わずにしまっておく期間のことです。開ける前に「何を満たせば合格か」を文書に固定し、一度だけ当てて、結果を見てから条件を変えません。一度開けた期間は、もう保留期間ではなくなります。

当方は、当方のモデル(オッズを使わない指数を含む。第2節とは別の版)の候補を、2025年7〜9月の保留期間に一度だけ当てました。判定時点は締切3分前です。

点数 1日の点数 的中率 回収率 下限
対照:全馬の単勝 29,677 322.6 9.6% 73.08% 68.59
候補 1,275 13.9 12.7% 138.39% 113.16

月ごとでは 7月 147.2%(461点)・8月 145.2%(381点)・9月 123.0%(433点)でした。確定オッズで当てた場合は 139.38%(1,096点)で、判定時点との差は小さく、第3節のような先読みの上振れはこの候補では見られませんでした。事前に決めた合格の条件は満たしています。

それでも当方は、この結果を黒字の証拠とは呼んでいません。同じ候補を他の期間に当てた結果が次のとおりだからです。

期間 位置づけ 点数 的中率 回収率
2025年7〜9月(92開催日) 保留(初めて開けた) 1,275 12.7% 138.39%
2025年10〜12月と2026年7月1日〜8月14日(134開催日) 別の検証で既に使った期間 1,816 未記録 111.5%
2026年8月15日〜9月23日(38開催日・締切120秒前) 同上 491 未記録 98.3%

三つの期間を点数で重み付けすると約119%(約3,600点)ですが、直近の38開催日がいちばん低いという事実は残ります。下限113を持つ保留期間の結果の後でも、次の期間で100%を割ることは起きます。2026年に市場がさらに厳しくなったのか、38開催日という短い期間の振れなのかは、まだ分かっていません。第1節の計算に照らすと、38開催日で出た数字は大きな揺れを含む可能性があります。当方はこの候補を、買う前に記録を固定する前向きの記録で追っています。

当方の作法:測る前に決めること

ここまでの四つの事例の背景には、当方が検証で守っている作法があります。平易な言葉にすると次のとおりです。

  1. 事前登録: 母集団・期間・判定の基準を、測る前に文書に固定します。固定した文書は変更の履歴ごと残します。
  2. 区間: 回収率の点の値だけでなく下限を出します。下限が対照を上回らない限り、「優位がある」とは呼びません。
  3. 結果を見てから条件を足さない: 「一部を除いたら良くなった」という数字は、当方の記録の中で5回消えています。
  4. 比率の前に件数を見る: 何を数えているかを先に確かめます。当方は、中央競馬の集計が年約5,900レースを示していたこと(中央の実数は年約3,400)から、地方のレースの混入に気づいたことがあります。
  5. 層は測る前に固定する: クラスや場で分けて測るときは、分け方を先に決めます。結果を見てから区切り直しません。
  6. 保留期間は一度だけ: 開けたら、その期間はもう答え合わせには使えません。

分かったこと・分からないこと

分かったこと
– 150開催日で証明できる最小の差は、複勝を上位人気に寄せた作り方で8.3ポイント(近い日の連動を考えると12.1ポイント)、単勝では22.5〜27.0ポイントです。
– 半年で「片側95%の下限が100を超える」ことを示すには、真の回収率が108〜112%程度以上ある必要があります。
– 当方のモデルの12年の前向き検証では、100%を超えたのは12年中5年で、2013〜15年の104.65〜113.65%から2021〜24年の77.48〜87.01%へ下がりました。全馬の単勝は毎年66〜71%で動いていません。
– 確定オッズで作った入力を判定時点のものに替えると、110.98%(下限100.75)が83.07%(下限70.54)になりました。
– 保留期間で138.39%(下限113.16)を出した候補も、直近の38開催日では98.3%でした。

分からないこと
– 2021年以降に歪みが薄れた理由は未測定です。
– 保留期間の138%と直近の98%の差が、市場の変化によるものか短期の振れかは未解明です。
– 近い日の連動の大きさは、週のまとまりが約8個しかない期間から推定しており、精度は低いままです。

回収率の主張を点検する6項目

他人の数字にも自分の数字にも、同じ6項目を当てることができます。

項目 見るところ 当方の事例
1. 点数と的中率 何点買って何%当たったか。単勝で数百点なら揺れの範囲に収まる可能性が高い 単勝を1日18点近く買っても、150開催日で証明できる差は22.5ポイント
2. 区間 下限が100(または対照)を上回っているか 110.98% の下限は 100.75 で、判定時点では 70.54
3. 期間 複数年・複数期間を並べているか。良い年だけを切り出していないか 12年中100%超えは5年。2014年だけなら113.65%
4. 確定か判定時点か 回収率を確定オッズで計算していないか。入力に締切後の情報が入っていないか 相関0.98の入力の差で 110.98% → 83.07%
5. 事前登録と保留期間 基準を測る前に決めたか。答え合わせの期間を一度だけ使ったか 保留期間 138.39% の後の38開催日で 98.3%
6. 試した数 いくつ試して、いくつ捨てたか 片側5%の基準で20通り試せば、優位が無くても1通り程度は基準を越える計算になります

予想への示唆

  1. 単勝の数か月分の成績で予想の良し悪しを判断するのは難しいと考えられます。1日数点の単勝では、20ポイント前後の差でも揺れと区別できない可能性があります。
  2. 自分の予想を検証するときは、確定オッズではなく買う時点の値段で記録を残すほうがよいと考えられます。第3節の事例では、その違いだけで回収率が約28ポイント動きました。
  3. 点数・期間・区間のどれかが書かれていない回収率は、判断の材料として弱いと読めます。6項目のうち答えられないものが多い数字ほど、慎重に扱う必要があると考えられます。

次回

ここまで当方は、事前登録と一度だけの答え合わせで自分の数字を点検してきました。それでも最後に残るのは、買う前に記録を固定した前向きの成績です。次回の第15回(第2部の最終回)では、当方がその前向きの記録をどのように公開しているかを示します。


次回: 第15回(第2部・最終回)「前向きの記録の公開」。買う前に買い目を固定し、後から書き換えられない形で成績を残す方法を示します。

数か月の当たり外れで、舌が肥えたと思ってはいけない。

当方の価格モデルによる地方競馬の買い目は、締切3分前にメールで届けるサービスとして準備しています。前向き検証の公開方法と先行案内はこちらのページにまとめています。