— 13場のクラス名の正規化と5年間・67,519レースの分析
今回の問い
第1回で、地方競馬は中央より本命が固く(1番人気の勝率 44% 対 34%)、その理由がレースの構造にあると考えられることを見ました。第2回では、地方に無い情報と、地方の市場が公開情報を織り込み残している度合いを確かめました。
今回はレースの構造の中核であるクラスを扱います。中央競馬のクラスは全国共通(新馬・未勝利・1勝〜3勝・オープン)ですが、地方競馬のクラスは主催者ごとに決まり、記号も水準も組分けの意味も違います。「同じC2だから同じくらいの馬」という読みは、地方では成り立ちません。まずその違いを一つの構造に整理し、次に「昇級初戦」「降級初戦」「同条件」といった局面ごとの成績と、市場がそれをどう値付けしているかを見ていきます。
データと方法
- 対象: 地方13場(帯広を除く)・2021年1月〜2025年12月・67,519レース・675,752頭(着順あり)。
- クラス名は公式データの競走条件の名称(全角の文字列)を、年齢条件・クラス記号・組番号・付加条件(選抜・選定・特別など)に分解しました。3,351種類の名称のうち 99.67% のレースを分解できています。
- 局面は、同じ馬の直前のレース(同じ地区内)と比べて付与しました。回収率はすべて確定オッズ(締切後に分かる値段)で計算した「地図」であり、買い目の主張ではありません。
1. 場ごとにクラスの記号が違う
| 地区(場) | クラスの梯子(上から) | 組の書き方 | 1着賞金の目安(C級) |
|---|---|---|---|
| 南関東(浦和・船橋・大井・川崎) | OP → A2 → B1・B2・B3 → C1・C2・C3 | 「C2 三」「C2 三 C2 四」(漢数字・2〜3組の混合が多い)、選抜・選定 | C3 で 80万円 |
| 岩手(盛岡・水沢) | OP → A → B1・B2 → C1・C2 | 「C2 四」(漢数字) | C2 で 35万円 |
| 東海(名古屋・笠松) | OP → A → B → C(記号は3段だけ) | 「C −10」「C −31」(番号が多く、C は31組まで) | C で 40〜45万円 |
| 金沢 | OP → A → B1・B2 → C1・C2 | 「C2−10」 | C2 で 40万円 |
| 兵庫(園田・姫路) | OP → A1・A2 → B1・B2 → C1・C2・C3 | 「3歳上C3 二」(年齢条件が常に付く) | C3 で 50〜56万円 |
| 高知 | A → B → C1・C2・C3 | 「C3−12」、選抜馬 | C3 で 60万円 |
| 佐賀 | OP → A1・A2 → B → C1・C2 | 「C2−15」 | C2 で 35万円 |
| 北海道(門別) | OP → A1〜A4 → B2〜B4 → C1〜C4、2歳は新馬・認定未勝利・未勝利 | 「C4−3」 | C4 で 40万円 |
同じ「C」の記号でも、南関東のC3(80万円)と佐賀のC2(35万円)では1着賞金が2倍以上違います。クラス記号は場の内側でしか意味を持たない、というのが第一の事実です。
2. 「組」は何を表しているか
多くの場では、同じクラスの中を「組」に分けます。組の番号が小さいほど上位なのか、確かめました。各場・各クラスで、組番号と出走馬のそれまでの獲得賞金(データ内で累積)の順位相関を取ります(負なら組1が上位)。
| 場 | 相関の中央値 | 読み |
|---|---|---|
| 佐賀・浦和・笠松 | −1.00 | 組1が最上位で、ほぼ完全に単調 |
| 名古屋・金沢・高知 | −0.98〜−0.99 | 同上 |
| 園田・川崎・門別・船橋・水沢 | −0.83〜−0.90 | おおむね組1が上位 |
| 大井 | −0.81(ただし B3 は +1.00、C1 は −0.09) | クラスによって関係が崩れる |
| 盛岡 | −0.69(B2 は 0.00、C1 は +0.50) | 同上 |
| 姫路 | −0.25 | 組が少なく判定しにくい |
ほとんどの場で「組1が最上位」と読んで差し支えなさそうです。ただし大井のB3や盛岡のC1のように、組番号と実績の関係が逆転または無関係になるクラスがあります。組分けの基準が賞金順ではない場・クラスがある可能性があり、組番号を機械的に「格付け」と読むのは避けたほうがよいと思われます。
3. 昇級初戦・降級初戦・同条件 — 局面ごとの成績
同じ馬の直前のレースと比べ、クラスが上がった(昇級初戦)、下がった(降級初戦)、同じクラスで組が上がった/下がった、クラスも組も同じ(同条件)に分けました。
| 局面 | 頭数 | 勝率 | 3着内率 | 1番人気になる率 | 平均人気 |
|---|---|---|---|---|---|
| 昇級初戦 | 43,849 | 14.6% | 37.8% | 17.5% | 4.8 |
| 組の上昇 | 113,262 | 10.5% | 31.2% | 11.3% | 5.6 |
| 降級初戦 | 39,639 | 10.5% | 30.2% | 10.3% | 5.7 |
| 組の下降 | 87,448 | 8.1% | 26.5% | 7.0% | 6.1 |
| 同条件(クラスも組も同じ) | 118,372 | 7.3% | 25.5% | 6.2% | 6.3 |
| 地区をまたぐ(遠征) | 22,820 | 15.0% | 36.6% | 16.0% | 4.7 |
| 年齢限定戦から古馬編入 | 12,844 | 11.1% | 30.9% | 11.9% | 5.7 |
昇級初戦の馬は勝率 14.6% と、同条件の馬(7.3%)の2倍勝ちます。直前に勝って昇級してきた馬ですから当然ではあります。重要なのは右の列で、市場もそれを知っています。昇級初戦の馬は 17.5% が1番人気に支持され、平均人気も最も高い。「昇級初戦は狙い目」と言うだけでは、市場の見立てをなぞっているにすぎない可能性があります。
4. 市場は局面を値付けしているか — 1番人気だけを見る
局面の情報が市場に織り込まれているかを見るために、1番人気だけに絞って勝率と複勝の回収率(確定オッズ)を並べます。
| 局面(1番人気のみ) | 頭数 | 勝率 | 複勝回収率 |
|---|---|---|---|
| 地区をまたぐ | 3,648 | 49.0% | 92% |
| 年齢限定戦から古馬編入 | 1,529 | 48.8% | 91% |
| 昇級初戦 | 7,693 | 47.3% | 88% |
| 降級初戦 | 4,069 | 45.0% | 91% |
| 組の上昇 | 12,773 | 44.6% | 89% |
| 組の下降 | 6,159 | 41.7% | 87% |
| 同条件 | 7,312 | 38.4% | 87% |
1番人気の中でも、局面で 10 ポイント以上の差が残っています。最も弱いのは同条件の1番人気(38.4%)で、地方の1番人気の平均(44%)を大きく下回ります。前走と同じクラス・同じ組にとどまっているということは、前走で勝ちも負けもしなかった馬です。その馬が1番人気に推されたとき、市場がやや高く見積もりすぎている可能性がある、と読めます。ただし複勝回収率は 87% で、確定オッズで見ても控除を超える大きさではありません。
逆に、人気薄の側では差がもっと大きく出ます。7番人気以下の複勝回収率は、同条件で 64%、昇級初戦で 56% です。昇級初戦の人気薄は、直前に勝った馬ではなく「組の再編で上に押し出された馬」を含むためではないか、と考えられますが、本稿では分解していません。
5. クラスで予想の当てやすさは変わるか
クラス群ごとに、人気順と勝率の関係を並べました。
| クラス群 | 1番人気の勝率 | 1番人気の3着内率 | 5番人気の勝率 |
|---|---|---|---|
| OP・A級 | 43.9% | 76.2% | 5.3% |
| B級 | 42.0% | 73.9% | 6.0% |
| C1・C2 | 44.7% | 75.6% | 5.3% |
| C3・C4 | 43.9% | 75.4% | 5.2% |
| 2歳・3歳限定 | 44.6% | 76.9% | 5.1% |
| 新馬・未勝利 | 47.0% | 81.6% | 5.0% |
クラスの上下で本命の固さはほとんど変わりません(42〜47%)。唯一、新馬・未勝利で本命がやや固い。「下級条件は荒れる」「上級条件は堅い」という通念は、地方の数字では支持されないように見えます。
一方で、場ごとには差があります。南関東の上位クラス(大井A2 32.9%、川崎A2 30.4%、浦和B3 32.3%)は本命が弱く、金沢のC1(54.3%)や門別のB2(62.3%)は強い。クラスの水準より、場と頭数のほうが当てやすさを左右している可能性があります。
6. 分かったこと・分からないこと
分かったこと
– クラス記号は場の内側でしか意味を持たない。同じ記号で1着賞金に2倍以上の開きがある。
– 組はほとんどの場で組1が最上位だが、大井のB3や盛岡のC1のように関係が崩れるクラスがある。
– 昇級初戦は勝率が高い(14.6%)が、市場もそれを知っている(1番人気率 17.5%)。
– 1番人気の中で最も弱いのは「同条件」の馬(38.4%)。人気薄で最も弱いのは「昇級初戦」の馬(複勝 56%)。
– クラスの上下で本命の固さはほとんど変わらない。
分からないこと
– 組分けの基準が場ごとにどう決まっているか(賞金順か、別の指標か)は、公式データからは分かりません。関係が崩れる場については主催者の規程を確かめる必要があります。
– 局面の差が締切前の値段で買えるかどうかは、ここでは扱っていません(確定オッズの地図です)。
予想への示唆
- 地方のクラスは場ごとに読み替えが要ります。「C2」だけを見て水準を判断せず、その場の梯子と1着賞金で位置を確かめるほうがよいと思われます。
- 昇級初戦の馬は強いが人気にもなります。狙い目として語るなら、人気との兼ね合いで考える必要がありそうです。
- 前走と同じクラス・同じ組にとどまった馬が1番人気のときは、その支持がやや過大である可能性を疑ってもよいかもしれません。ただし配当で見れば、それだけで利益になる大きさではありません。
(追記 2026-09-23)この3点目は、締切3分前の値段で事前登録して確かめました。同条件の1番人気は他の1番人気より複勝回収率で6.5ポイント低く(片側95%区間 −10.7〜−2.3)、勝率は36%対47%でした。詳細は検証シリーズの第56回「解体新書の検証回②」をご覧ください。
次回: 「所属・遠征と中央からの転入馬」— 地方の出走馬の6割を占める元中央馬の成績と、南関東4場の所属場ごとの力関係を数えます。
同じC2の札でも、この場にはこの場の値打ちがある。
この連載の分析をもとにした、地方競馬の買い目の配信を準備しています(先行案内)。公開開始のお知らせは X でも行います。


