3日前まで、この数字は行き止まりでした。「決着させるにはJRA15年分のデータが要る」
という計算まで書いて、棚に上げていました。今回は、その行き止まりが1つの質問で
割れた話です。
「一撃買い」を数える
私たちはオッズの時系列を、1レースあたり最大119時点(前日夜から締切まで・直前は2分刻み)
保存しています。これで「どの馬が買われたか」だけでなく、「どう買われたか」が測れます。
- じわじわ買われた馬: 一般のファンの資金は分散して入る
- 一撃で買われた馬: 事情を知る誰かの資金は、短時間にまとめて入る
- その一撃が締切の数分前なら、なおさら怪しい
そこで「前走で、レース内で最も取り分を伸ばし、その増加が一撃型で、
一撃が締切4分前以内だった馬」を3年分探しました。1,165レースが該当します。
3年測って「決着せず」
この馬たちの次走の複勝を、同じレースの朝一1番人気と比べた結果:
+7.40ポイント。ただし95%信頼区間は [−7.9, +27.5]。
ゼロをまたいでいます。つまり「本物の差」とも「ただの偶然」とも言えない。
この幅を潰すには約6,700レース分の該当例——発生率から逆算してJRA15年分が必要でした。
過去のデータは3年で使い切っている。行き止まりです。
「前走からの間隔で割ってみたら」
転機は検証の副産物でした。データの範囲を1年広げたとき、追加されたのが
休養明けの馬(前走が古い馬)ばかりで、そして数字が悪化したのです。
そこから仮説が生まれます。インサイダーの情報は「前走時点の馬の状態」の情報だ。
なら、時間が経てば腐るはずだ。
前走からの間隔で3つに割りました。区切りは中4週(28日)と中12週(84日)、
測る前に固定しています。
| 前走からの間隔 | レース数 | 該当馬の複勝 | 1番人気との差 | 95%区間 |
|---|---|---|---|---|
| 28日以内(新鮮) | 562 | 117.8% | +29.8pt | [+0.8, +68.1] |
| 29〜84日 | 461 | 83.7% | −6.5pt | [−20.9, +8.9] |
| 85日以上(古い) | 196 | 52.6% | −37.5pt | [−55.8, −18.7] |
完全な単調勾配です。 4週間以内なら痕跡は光り、3か月経つと毒に変わる。
3年間の「+7.4ポイント・決着せず」は、新鮮な痕跡の光を、古い痕跡の毒が
打ち消した平均でした。効果は消えていたのではなく、混ぜられていたのです。
古い側がただゼロに戻るのではなく大きくマイナスに沈むのも筋が通っています。
半年前に「買われた」事実だけが残っている馬は、期待だけ背負って実体が伴わない——
市場が古い記憶で過大評価している側、ということです。
同じ質問を、別の戦略にもぶつけた
面白いのはここからです。私たちの主力戦略(オッズの歪みを突く複勝1点買い)にも
同じ「鮮度で割る」検査をしました。結果は——完全に平坦。前走がいつだろうと
成績は変わりませんでした。
つまり「鮮度」は、エッジの正体を見分けるリトマス試験紙になります。
- 鮮度で腐るエッジ = 馬の状態を知る「人」の情報を拾っている
- 鮮度で腐らないエッジ = 市場の値付けの「構造」を拾っている
同じ複勝を買っていても、拾っているものが別物なら、それは重ねる価値のある
独立した2つの戦略だ、ということが分かります。
正直な留保
浮かれる前に、書いておくべきことがあります。
- この仮説は結果を見てから生まれました。 同じデータで確認しても本物の証拠には
なりません(都合の良い切り方を後から見つけただけかもしれない)。 - 新鮮層は562レース——年あたり190件弱で、私たちの「年500件未満の光は追わない」
基準を下回ります。過去データではこれ以上決着しません。 - だから、判定は未来に凍結しました。 今日から紙上で該当馬を毎週自動集計し、
300レース貯まった時点で1回だけ判定します。途中で定義を変えない、
成績が悪くても打ち切らない、良くても前倒ししない。
行き止まりに見えた数字の中に、鮮度という軸が隠れていた。
次にこの話の続きを書くのは、装置が300レースを数え終えた日です。
本連載は、実際の検証記録に基づいています。数字はすべて実測値です。
噂も刺身と同じか。鮮度が落ちると、腹を下す。


