AIでJRAの回収率110%を目指す検証(第10回)|追われていない時計は、ノイズではなく情報だった

追われていない時計は、ノイズではなく情報だった 実験ログ

掲示板に届かないと分かった時点で、騎手は本気で追いません。その走破時計を能力の測定値として指数化するのは誤りではないか。そこから二つの検証が生まれました。現象そのものはデータに出ましたが、対処は二つとも否定されています。

出発点となった指摘

この検証ではスピード指数を自作しています。走破時計を、コースと距離の基準タイム、その日の馬場差、距離帯ごとのばらつきで正規化した数値です。全出走馬に対して計算しています。

そこに次の指摘がありました。

入線ラインである5着に入るか入らないか以降の着順になりそうだったら、本気で走っていないタイムではないか。

競馬を見ていれば分かる話です。勝ち負けの圏内から外れた時点で、騎手は無理に追いません。馬を痛めるだけだからです。その時計を「この馬の能力」として記録するのは、測定として筋が悪い。

この指摘は、実は二つの別々の主張を含んでいます。分けて検証しました。

問い 検証
前半 汚れた時計を除けば、着順を当てる精度が上がるか 検証1
後半 巷の指数も汚れているなら、市場が過小評価しているのではないか 検証2

前者はモデルの精度の話、後者はオッズが間違っているかの話です。まったく別の測定になります。

現象そのものは、データに出た

まず、追っていないと言えるのかを確認しました。手がかりは上がり3ハロンです。追うのをやめた馬は、最後の3ハロンが自分の平常時より遅くなるはずです。

各馬について、レース内平均からのズレを計算し、さらにその馬自身の平常値と比べました。プラスが遅い側です。

着順帯 上がり3Fのズレ 件数
1-3着 −0.393秒 53,437
4-5着 −0.216秒 35,024
6-9着 −0.043秒 65,302
10着以下 +0.525秒 59,754

6-9着から10着以下にかけて、0.57秒の断層があります。

ここが重要です。単に能力が足りずに負けているなら、着順が下がるにつれてなだらかに悪化するはずです。実際には、あるところで折れています。これは能力のばらつきではなく、行動の変化を示す形です。指摘は現象として正しいと確認できました。

対象データでは、59.8%が6着以下でした。指数の6割近くが、程度の差はあれこの問題を抱えていることになります。

検証1:除外すると、予測が逆転した

では汚れた時計を外せばよいのか。ここで慎重になる必要がありました。

単純に「6着以下を除外」すると、逆向きの偏りが生まれます。 大敗を繰り返す馬ほど記録が多く消され、残った少数の好走だけで評価されるからです。弱い馬が強く見える装置になりかねません。

大敗を繰り返すこと自体が能力の情報です。消してよいものではありません。

そこで三つの推定量を比較しました。判定基準は検証前に固定しています。

推定量 中身
(a) 現状 直近4走の指数の平均
(b) 除外 6着以下を除いた平均
(c) 打ち切り 直近4走のうち上位2走の平均

(c)は削除ではなく、順位による頑健な集約です。馬をサンプルに残したまま、追っていない走りの影響だけを落とせます。

複勝的中に対する予測力(AUC、0.5がランダム)を、同一の標本19,685行で測りました。

推定量 AUC
(a) 現状 直近4走平均 0.5502
(b) 除外 6着以下を除く 0.4842
(c) 打ち切り 上位2走平均 0.5332

(b)が0.5を割っています。 ランダムより悪い、つまり逆に予測するという意味です。この推定値が高い馬ほど、複勝を外します。

懸念した削除の偏りが、予想よりはるかに強く出ました。(c)の打ち切りも悪化しています。基準に届かず、この方向は否定されました。

結論はこうなります。

追われていない時計は、ノイズではなく情報である。

「追われなかった」という事実そのものが、「その馬はその日通用しなかった」という能力の情報を持っています。時計としては汚れていますが、記録としては正しい。だから捨てると予測が悪くなります。

検証2:市場は、既に読んでいた

検証1は「モデルの精度」の話です。「市場が間違っているか」はまだ測っていません。

指摘の後半はこうでした。巷のスピード指数も汚れた時計を使っている。ならば市場はその馬を過小評価しているはずで、次走に妙味が残るのではないか。

素朴に「大敗後の馬を買う」だと、既に否定されています。この検証の第2回で扱ったとおり、その母集団の複勝回収率は70%前後です。

しかし指摘の本質はそこではありません。同じ大敗でも、追われていない大敗と、追って負けた大敗は意味が違うという点にあります。市場が前走着順しか見ていないなら、両方に同じ割引がかかるはずです。

そこで二つの群を作りました。

群 定義 件数
A 前走6着以下 かつ 上がり3Fが平常値より +0.5秒以上落ちた 23,013
B 前走6着以下 かつ 平常値より +0.1秒未満 22,641

判定は二段階で用意しました。ここを混ぜると誤読します。

  • バー1:同じ人気構成の対照を有意に上回る → 市場が読んでいない証拠
  • バー2:回収率の信頼区間の下限が100%を超える → 買える

対照は控除率のぶん70%前後です。対照を数ポイント上回っても、買えば負けます。

結果です。

的中率 回収率(95%区間) 対照 差
A群 追われていない 15.1% 71.6%(67.9〜75.3) 69.8% +1.8pt
B群 追って負けた 12.6% 71.5%(67.5〜75.5) 68.2% +3.3pt

A群のほうが2.5ポイント多く走っています。指摘の前半は、ここでも正しい。

しかし回収率は71.6%と71.5%で、ほぼ完全に一致しました。

理由は対照の値に出ています。A群の対照が69.8%、B群が68.2%です。つまり市場は既にA群を短いオッズで買っています。多く走るぶん配当が安く、差し引きゼロになる。効率的に価格付けされたファクターの、教科書どおりの形です。

「市場は前走着順しか見ていない」という前提が外れていました。 群衆は負け方の中身を読んでいます。

止めを刺したのは参考値として出した部分集合です。

的中率 回収率 対照 差
A群かつ前走4角で後方3割 10.1% 64.3% 67.2% −2.9pt

4コーナーで既に勝負圏外にいた馬は、最も明確に追うのをやめた集団です。仮説の機構が本物なら、ここが最もおいしいはずでした。実際には最も悪い。

否定の質について

この二つの検証は、いずれも否定に終わりました。ただ、これまでの否定とは質が違います。

第7回までの否定は「我々のモデルが市場より弱い」という形でした。今回測れたのは、群衆が思っていたより賢いという事実です。

上がり3Fの落ち込みという、パッと見では気づきにくい情報が、既にオッズに入っている。誰かが計算しているのか、多くの人が感覚的に「今回は違う」と判断した結果が集計されているのかは分かりません。いずれにせよ、価格には入っています。

パリミュチュエル方式の市場を相手にするというのは、こういうことなのだと思います。

まとめ

項目 結果
追っていない時計は存在するか する(10着以下で上がり3Fが+0.525秒、0.57秒の断層)
該当する割合 59.8%
除外すると精度は上がるか 下がる(AUC 0.5502 → 0.4842、逆に予測する)
打ち切り処理では 下がる(0.5332)
市場は過小評価しているか していない(的中率は2.5pt高いが回収率は同じ)
最も明確に追うのをやめた集団 対照を2.9pt下回る

現象の観察としては正しく、対処としては二つとも誤りでした。こういう形の否定もあります。


本記事はAIが下書きを生成し、人間が公開可否を判断しています。掲載した数値はすべて実データによる分析結果であり、恣意的な抽出は行っていません。本記事は情報提供を目的としたものであり、馬券の購入を勧誘するものではありません。

負け方まで値踏みされていた。試されていたのは、こっちか。

この後の実験は、地方競馬に舞台を移しています。

地方競馬の市場について測った事実は連載「地方競馬の解体新書」に、当方の価格モデルによる買い目の配信(準備中)は先行案内のページにまとめています。