AIでJRAの回収率110%を目指す検証(第27回)|控除率は、思っていた場所になかった

控除率は、思っていた場所になかった 実験ログ

複勝の払戻率は80%と決まっています。
ところが4年ぶんの実測を並べたら、対象にした全馬の回収率は 72.9% でした。
7ポイント、低いほうにずれています。
この記事は、そのずれがどこから出るのかと、
「人気馬は当たるが儲からない」がどれくらい正確に成立するのかの記録です。

この検証について

JRAのレースを対象に、公開データだけで回収率110%が成立するかを検証しています。
的中率ではなく回収率を見ます。当たっても払戻が控除率を超えなければ、当たった意味はありません。

これまで80回以上の実験をして、まだ一度も回収率100%を超えていません。


そもそも、なぜこれを測ったのか

きっかけは単純な問いでした。

「人気馬は過剰に買われている」とよく言われる。
では、1番人気を全部買ったら、平均より上なのか下なのか。

もし1番人気が過剰に買われているなら、1番人気の回収率は全体平均より低いはずです。
そして「1番人気を除いた残り全部」を買えば、平均より高くなるはずです。

この見立てが正しいかどうかで、次に何を作るかが変わります。
正しければ「人気馬を避ける」方向に進めます。間違っていれば、その路線は畳みます。

だから、特徴量も条件も何も足さずに、まず事実だけを測りました。


測ったもの

対象は4年ぶんのレースです。生の件数から順に絞りました(比率を出す前に件数を見る、というのが
この検証の作法です)。

読み込んだ全体            290,107 頭
中央の10場に限定          189,925
障害を除外                184,177
新馬を除外                168,369
8頭以上のレースに限定     166,715
着順が正常に付いている    165,630

最終的に 165,630 頭 / 11,873 レース。
買い目はありません。層別もしていません。ただ人気順位で分けて、複勝の回収率を出しただけです。

なお人気順位は、データベースの「人気」欄をそのまま使わず、
レース内の単勝オッズの昇順で自前に付け直しました。
同じオッズの馬が複数いる場合は同順位を分け合う扱いにしています(1位が同着になるのは全体の約2%)。
自前の順位とデータベースの人気欄の一致率は 97.5% で、
同着の割り方を変えた感度でも、この記事の結論は動きません。


結果1:控除率は 80% ではなく 72.9% の位置にあった

4年通算です。区間はレース単位のブートストラップで出しています。

複勝的中率 複勝回収率 95%区間
対象の全馬 21.5% 72.9% [71.8, 74.0]

複勝の払戻率は 80% です。実測はそれを 7.1ポイント下回りました。

差が出る理由は、控除率そのものではなく母集団の作り方にあります。

  • 8頭以上のレースに限っている(少頭数レースを外している)
  • 障害と新馬を外している
  • 払戻には最低保証(100円元返し)や端数の丸めがあり、実際の払戻は理論値どおりにならない

つまり「80%が基準」と思って計算すると、最初から 7ポイントずれます。

これは地味ですが、実務上いちばん効きます。
「回収率78%」という数字は、80%を基準にすると『控除率よりやや下』ですが、
72.9%を基準にすると『平均より 5ポイント上』です。評価が逆になります。

この検証では、これ以降絶対回収率を語るときの基準線を 72.9% に置くことにしました。


結果2:人気順位に沿って、きれいに下がる

人気順位 複勝的中率 複勝回収率 95%区間
1番人気 64.3% 85.1% [84.0, 86.3]
2番人気 51.5% 83.8% [82.2, 85.4]
3番人気 41.3% 80.9% [78.9, 82.9]
4番人気 33.5% 78.7% [76.6, 80.8]
5番人気以下 10.9% 69.2% [67.5, 70.8]

85.1 → 83.8 → 80.9 → 78.7 → 69.2%。
層別も選別もしていない生の並びで、きれいに単調です。

これは「人気馬ほど不利」の逆です。人気馬ほど回収率が高い。
競馬に限らず、オッズのある市場で広く知られている偏りが、複勝でも素直に出ています。


結果3:だから、当初の見立ては外れました

1番人気は、全体平均を 12.2ポイント上回っていました。

1番人気     85.1%  [84.0, 86.3]
全体平均    72.9%  [71.8, 74.0]

しかも年ごとに4年とも、区間が重なりません。

年 1番人気 全体平均
1年目 84.4 [82.1, 86.7] 72.2 [70.3, 74.4]
2年目 85.0 [82.6, 87.3] 73.5 [71.3, 75.7]
3年目 84.4 [82.0, 86.9] 72.7 [70.4, 75.2]
4年目 86.7 [84.3, 89.1] 73.1 [71.0, 75.5]

いちばん差が小さい年でも、下限どうしの差が 9.2ポイントあります。
「決着せず」ではありません。「上」で確定です。

したがって「1番人気を除いた残り全部を買う」路線は、ここで畳みました。
測る前に『上なら畳む/下なら進める』と決めてあったので、迷いは生じていません。


ただし、いちばん大事なのはここです

1番人気の回収率は 85.1% です。100%には 14.9ポイント足りません。

当たる    複勝的中率 64.3%(3回に2回は当たる)
儲からない 回収率 85.1%(買い続ければ確実に減る)

「当たる」と「儲かる」は、これくらいはっきり別物です。
3回に2回当たる買い方が、長期では資金を15%ずつ削っていきます。

これは今回に限った話ではありません。この検証で80回以上やって、
100%を超えた買い方はまだ1つもありません。


慎重に書いておくこと

「1番人気を除いた残り全部」も測りました。

1番人気を除いた全馬   71.9%  [70.7, 73.2]
全体平均              72.9%  [71.8, 74.0]

点は下ですが、区間は重なっています。
「1番人気を除くと平均より下になる」とまでは、この数字では言えません。

理由は割合です。1番人気は全体の 7.3% しかないので、除いても平均はほとんど動きません。
判定に使ったのは「1番人気 vs 全体平均」であって、この行ではありません。

当初、この点を『実測で確定した』と書きかけて、書き直しました。
方向は再現したが、確定と言える強さではない、というのが正確です。


今回わかっていないこと

  • 過去データの中の話です。 これから走るレースで同じになる保証はありません
  • 買い方の話は一切していません。 人気順位で分けて眺めただけです
  • 「1番人気が高いから1番人気を買えばよい」ではありません。 85%は100%未満です
  • 少頭数のレースや障害を入れれば、数字は変わります。 母集団は測る前に固定しました

次にやること

「人気馬を避ける」路線は畳みました。残ったのはレースそのものを選ぶほうです。

そして今回いちばん実務的な収穫は、基準線が 72.9% だと分かったことです。
これから出てくるあらゆる回収率を、80%ではなくこの線と比べます。

基準を間違えると、良くも悪くも 7ポイントぶん判断がずれます。
測り方の前に、物差しの位置を確かめる——という当たり前を、今回やり直した形です。


この記事は実験の記録です。馬券の購入を勧めるものではありません。
記載した数値はすべて過去データに対する測定値で、将来の成績を示すものではありません。

看板に書いてある値と、実際の払いは違うものだな。

この後の実験は、地方競馬に舞台を移しています。

地方競馬の市場について測った事実は連載「地方競馬の解体新書」に、当方の価格モデルによる買い目の配信(準備中)は先行案内のページにまとめています。