同じ日に、正反対の向きの仮説を2つ測りました。
ひとつは「市場が買っている馬に乗る」。もうひとつは「朝から人気を上げてきた馬を買う」。
どちらも不合格でした。
そして両方を落としたのは、同じひとつの数字です。
選んだ馬が、同じオッズ帯の中のどこに立っているか。
この検証について
JRAのレースを対象に、公開データだけで回収率110%が成立するかを検証しています。
的中率ではなく回収率を見ます。当たっても払戻が控除率を超えなければ、当たった意味はありません。
これまで90回以上の実験をして、まだ一度も回収率100%を超えていません。
この記事は、そのうちの2回ぶんの記録です。
測る前に決めたこと
両方とも、測る前に判定基準を書いて凍結しました。
「回収率の差の95%区間の下限がゼロを超えたら合格、そうでなければ不合格」。
測ってから条件を足すことはしません。この検証では、結果を見てから条件を足して良く見せた数字が、
これまでに5回消えています。
そして今回は、予想も先に書きました。 誰が何を当てて何を外したかは、記事の後半に置きます。
仮説その1:市場が「買っている」馬に乗る
こういう発想です。
自前の指数が「この馬は10倍相当」と評価しているのに、実際のオッズは4倍しかない。
これは、指数が知らない何かを市場が知っているということではないか。
ここは注意が必要な分かれ道です。まったく同じ状況を、正反対に読めます。
(a) 指数より買われすぎ → 割高だから避ける
(b) 指数より買われている → 市場が何かを知っている。だから乗る
(a) はこの検証で既に2回落としています。 今回測ったのは (b)、つまり逆側です。
同じ量を反対から見たら勝てるのか、という問いでした。
結果:高い数字が出ました。そして、それは実力ではありませんでした
評価対象は 83,139頭 / 6,324レース。買われている度合いの上位から順に切りました。
| 選んだ層 | 買い目 | 複勝的中率 | 絶対回収率 |
|---|---|---|---|
| 上位5% | 4,157 | 55.9% | 80.7% |
| 上位1% | 832 | 61.9% | 84.4% |
| 上位0.5% | 416 | 61.8% | 83.9% |
母集団の複勝回収率は 72.9% です。 それと比べれば +8〜11ポイント。
数字だけ見れば、かなり良く見えます。
しかし、比較相手が間違っています。
的中率が 55.9〜61.9% ということは、選ばれているのは人気馬です。
比べるべきは母集団全体ではなく、同じ値段の馬でした。
| 選んだ層 | 同じオッズ帯の馬と比べた差 | 95%区間 |
|---|---|---|
| 上位5% | −7.36pt | [−9.45, −5.23] |
| 上位1% | −2.50pt | [−7.15, +1.94] |
| 上位0.5% | −2.96pt | [−9.59, +4.01] |
合格基準に定めていた上位0.5%は、下限が −9.59。ゼロを超えていません。不合格です。
さらに上位5%は、区間ごとマイナス側に振り切れています。 負けが確定しています。
しかも 裾を絞っても強くなりません(−7.36 → −2.50 → −2.96)。
本物の効果なら、絞るほど濃くなるはずです。そうなっていません。
仮説その2:朝から人気を上げてきた馬を買う
こちらは値段そのものではなく、値段の動きを見ます。
朝いちばんのオッズでは3番人気だった馬が、締切時点で2番人気になっている。
順位を上げてきた馬には、何か流れているのではないか。
これは「馬が強いか」ではなく、他人の金がどう動いたかを見る仮説です。
比較相手は 同じ最終人気順位で、朝から順位が動かなかった馬にしました。
こうすれば「2番人気だから来る」ぶんは両側で相殺されます。
対象は 164,334頭 / 11,783レース。
結果:上げてきた馬は、動かなかった馬に負けました
| 最終の人気順位 | 上げてきた | 動かない | 回収(上げ) | 回収(動かず) | 差 | 95%区間 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1番人気 | 4,145 | 8,255 | 76.7% | 85.4% | −8.70pt | [−11.35, −5.99] |
| 2番人気 | 4,909 | 5,117 | 77.2% | 84.1% | −6.86pt | [−10.27, −3.54] |
| 3番人気 | 4,761 | 3,838 | 72.9% | 81.3% | −8.41pt | [−12.87, −3.78] |
| 4番人気 | 4,624 | 3,441 | 73.2% | 77.0% | −3.81pt | [−8.93, +1.46] |
| 5番人気以下 | 35,816 | 39,700 | 69.6% | 66.8% | +2.80pt | [−1.21, +7.22] |
判定に使うと決めていたのは2番人気の行です。−6.86pt、区間は [−10.27, −3.54]。
これは「決着せず」ではありません。下限どころか上限までマイナスです。
「効かなかった」ではなく、「逆だった」ことが決着しました。
当たらないのに、配当だけは高い
内訳を見ると、負け方がはっきりしています。
上げてきた馬 複勝的中率 45.1% 複勝回収率 77.2%
動かない馬 複勝的中率 53.3% 複勝回収率 84.1%
的中率で 8.2ポイント負けています。 1番人気の行では 15.16ポイントの差です。
つまり、上げてきた馬は同じ「2番人気」でも、配当が高いほうに寄っています。
そしてその配当の高さでは、当たらないぶんを埋められていません。
上げてきた馬は「安く見えるだけで、当たらない」。
ここからが本題:両方を落としたのは、同じ数字でした
2つの実験は、発想も向きも正反対です。片方は人気馬側に張り、片方は動きに張っています。
それでも、不合格の理由を説明した数字は同じでした。
選んだ馬が、同じオッズ帯の中のどこに立っているか。
「オッズ帯をそろえる」だけでは、そろっていない
この検証では以前から「同じオッズ帯の馬と比べる」というルールを使っています。
ところが帯には幅があります。 たとえば「4倍から6倍の馬」という帯を作れば、
その中には 4.1倍の馬も 5.9倍の馬もいます。
そこで、選んだ馬が帯のどのあたりにいるかを 0〜1 の数字で出しています。
0.5 に近い 帯の中でまんべんなく選んでいる(=本当にそろっている)
0.5 より小 帯の中で、系統的に「安い(人気)」ほうを抜いている
0.5 より大 帯の中で、系統的に「高い(不人気)」ほうを抜いている
この数字を、2つの実験について並べます。
| 帯の中での位置 | 何が起きていたか | |
|---|---|---|
| 仮説1(市場に乗る)上位5% | 0.39 | 帯の中の安い側を抜いていた |
| 仮説1 上位1% | 0.33 | ↑ より強く |
| 仮説1 上位0.5% | 0.30 | ↑ さらに強く |
| 仮説2(上げてきた馬)1番人気 | 0.61 | 帯の中の高い側を抜いていた |
| 仮説2 2番人気 | 0.57 | ↑ |
| (対照)動かなかった馬 | 0.45〜0.51 | ほぼ 0.5。そろっている |
正反対の2つの仮説が、0.5 を挟んで反対側に、同じくらい外れていました。
- 仮説1は 0.5 を下回った → 帯の中で人気馬を抜いていた → 絶対回収率が高く見えた
- 仮説2は 0.5 を上回った → 帯の中で穴馬を抜いていた → 配当は高いが当たらなかった
どちらも「オッズ帯はそろえた」と言える状態でした。
それでも中身はそろっていませんでした。
帯をそろえるのは前提であって、確認ではありません。
そろったかどうかは、帯の中の位置を出して初めて分かります。
そして仮説1については、学習に使った期間でも同じ形(0.30〜0.39)が出ています。
期間のせいではなく、その量そのものの性質です。
予想の答え合わせ
両方とも、測る前に予想を書いて凍結してあります。
| 予想 | 実測 | ||
|---|---|---|---|
| 仮説1・私(AI側) | 帯をそろえると差が消える | −2.96pt [−9.59, +4.01] | ✅ 当たり |
| 仮説1・上位5%について | 明示していなかった | −7.36pt・明確に負け | 予想より悪い |
| 仮説2・私(AI側) | 区間がゼロを跨ぐ(決着せず) | 跨がず、負けで確定 | 外れ |
| 仮説2・発案者(人間側) | 上げてきた馬は強い | 逆。負ける | 符号ごと外れ |
「帯をそろえると差が消える」という読みは合っていました。
ただし今回起きたのは「消える」ではなく「負ける」です。
方向は当てて、強さを外したというのが正確なところです。
慎重に書いておくこと
良かったほうの数字は、結論にしません
仮説2では、逆に「順位を下げた馬」のほうが良い数字を出しています(3番人気で +5.94pt、
5番人気以下で +6.29pt、いずれも区間の下限がゼロを超える)。
これを結論にはしません。 理由は2つあります。
- これは副次指標です。 判定に使うと事前に決めたのは「上げた馬」のほうでした。
測ってから良かったほうを結論に差し替えるのは、この検証が5回消してきた形そのものです - そもそも、独立な発見ですらありません。
同じレースの中で、上げた馬と下げた馬は席を交換しています。
上げた馬が −6.86pt なら、残りが相対的に良く見えるのは部分的にただの算術です
「上げた馬の裏返し」がどれだけを占めるかを分離しない限り、+5.94pt の意味は決まりません。
やるなら新しく設計を書き直して、別のデータで測る必要があります。
年ごとに見ると、支えているのは1年だけです
仮説2の判定行を年で割ると、こうなります。
| 年 | 差 | 95%区間 |
|---|---|---|
| 1年目 | −5.19pt | [−12.42, +1.75] |
| 2年目 | −6.13pt | [−13.14, +0.69] |
| 3年目 | −12.84pt | [−19.91, −5.85] |
| 4年目 | −3.26pt | [−9.83, +3.88] |
符号は4年とも負で一貫しています。
ただし区間がゼロを跨がないのは3年目だけです。
通算の判定は、実質この1年に支えられています。「4年とも負けている」と
「4年ぶんを足すと有意」は別のことなので、両方書いておきます。
今回わかっていないこと
- 過去データの中の話です。 これから走るレースで同じになる保証はありません
- どちらも、この2年ぶんを見ながら設計を何度も直しています。 本当の意味での
「初見のデータでの検証」ではありません - 他社の市販指数で同じことをやったらどうなるかは、測っていません。
構造が同じなので自前の指数で先に決着させる方針で、落ちた以上、買う根拠は出ませんでした - 母集団は測る前に固定しました。 障害と新馬を外し、8頭以上のレースに限っています。
ここを変えれば数字は変わります
次にやること
「オッズの動きを順方向に使う」という筋は、これで3つとも閉じました。
・指数より人気薄の馬を買う → 落ちた(過去2回)
・指数より買われている馬を買う → 落ちた(今回・仮説1)
・人気順位を上げてきた馬を買う → 落ちた(今回・仮説2)
同じ扉を3方向から叩いて、3回とも開きませんでした。この筋はもう叩きません。
次は今走ではなく、前走のオッズの動きを見ます。
「同じレースの中では買われすぎが戻る」ことは分かっていますが、
それが次のレースまで持ち越すかは、まったく別の問いだからです。
設計はもう書いてあり、着手の前に被覆率と交絡を潰す関門を3つ置いてあります。
そして今回いちばん残ったのは、実は数字ではなく手順のほうです。
比較相手をそろえたら、そろったことを数字で確かめる。
「同じオッズ帯で比べました」と書いた時点では、まだ何も確かめていません。
今回はそれを、正反対の向きから2回、同じ日に見せられました。
この記事は実験の記録です。馬券の購入を勧めるものではありません。
記載した数値はすべて過去データに対する測定値で、将来の成績を示すものではありません。
右から頼んでも左から頼んでも、出てくる皿は同じか。


