AIでJRAの回収率110%を目指す検証(第33回)|「いくら賭けるか」で回収率は上がるのか。測ったら、測る必要がないと分かった

「いくら賭けるか」で回収率は上がるのか 実験ログ

この検証は33回のうち、ほぼ全部を 「1点100円の均等買い」 でやってきました。
何を買うかは32回ぶん考えてきたのに、いくら賭けるかは一度も考えていません。

回収率110%は「何を買うか」だけでなく「いくら賭けるか」でも動くはずだ。
ずっとそう書いて、ずっと後回しにしていました。今回それを測ります。

結論から書きます。上がりました。そして不合格でした。
さらに、測り終えたあとで「これは測らなくても決まっていた」と分かりました。


1. 発想そのものは、悪くありませんでした

我々の指数には、こういう性質があります。指数が高い馬ほど、複勝の回収率が高い。

だったら、指数の高い馬に厚く賭ければいい。良い券と悪い券を同じ100円で買うのは、
価値を平らに均してしまう行為です。実際、以前べつの検証で
「選別して買うほうが、選別せずに総流しするより回収率が高い」(62.7% 対 52.6%)
という結果を得ています。

同じ理屈が、賭け金にも当たるはずです。

そこで、こういう賭け方を測りました。

賭け金 ∝ (その馬の指数 ÷ 基準値)の γ 乗
γ = 0(=いまの均等買い), 1, 2, 3, 4, 6 の6通りを全部測る

γ を上げるほど、指数が高い馬に賭け金が集中します。
総額は揃えてあるので、回収率をそのまま比べられます。

対象は 2021年〜2024年のJRA、買い目は約7,700点(6,102レース)。
複勝1点買い。測る前に、6通り全部を報告すること・良かった γ だけを選ばないこと・
あとから γ を足さないことを、実装のコメントに凍結してから走らせています。


2. 結果:上がります。上がるのに、不合格です

γ 回収率 95%区間 実効n 最大/最小の賭け金
0(いまの均等買い) 93.8% 91.0〜96.8% 7,738 1.0倍
1 94.0% 91.2〜96.9% 7,145 3.8倍
2 94.6% 91.7〜97.9% 5,423 14.5倍
3 95.8% 92.1〜99.9% 3,400 55.2倍
4 97.8% 92.6〜103.3% 1,898 210.4倍
6 104.1% 93.5〜115.9% 567 3,051.3倍

γ=6 で回収率104.1%。 100%を超えています。
ここだけ切り取れば「配分を変えるだけで回収率が100%を超えた」と書けます。

書きません。この検証の合格条件は「95%区間の下限が100%を超えること」です。
γ=6 の下限は 93.5% です。6通りすべて不合格でした。

2-1. なぜ下限が上がらないのか

右端の2列を見てください。

γ=0 → 6   回収率     93.8% → 104.1%(+10.3ポイント)
          実効n      7,738 →    567(13分の1)
          区間の幅   5.8pt →  22.4pt(3.9倍)

回収率が上がったぶんと、ちょうど同じだけ、区間が広がっています。

賭け金を傾けるというのは、上位の少数に賭け金を集めることです。
集めれば集めるほど、実質的に「少ない点数に賭けている」のと同じになります。
サンプルが減れば、数字は当てにならなくなる。 それが区間の幅として出ています。

2-2. 帰無との比較でも、差が出ませんでした

レースの中で指数をシャッフルして(頭数もオッズも払戻もそのまま、
「指数に傾けること」の情報だけを壊して)同じ計算を3回やりました。

帰無 1・2・3   下限が100%を超えた γ : 0個 / 0個 / 0個
実データ       下限が100%を超えた γ : 0個

指数の情報を壊しても、壊さなくても、結果は同じでした。


3. 「傾ける」は「捨てる」と区別できませんでした

ここで一つ、疑いが出ます。

賭け金を傾けるのと、上位だけを買う(=下位を捨てる)のは、本当に違う操作なのか。

傾斜は「捨てない・重みを移すだけ」だから閾値で切るより有利なはずだ、というのが
そもそもの発想でした。確かめました。

各 γ について、同じ実効nになる単純な閾値(指数の上位 k 点を均等買い)を作り、並べます。

γ 傾斜の回収率 傾斜の95%区間 → 同じ実効nの閾値 閾値の95%区間 差
0 93.8% 91.2〜96.6% 93.8% 91.2〜96.6% ±0.0pt
2 94.6% 91.7〜97.5% 93.0% 90.2〜95.9% 1.6pt
4 97.8% 92.5〜103.2% 93.8% 89.3〜98.2% 4.0pt
6 104.1% 93.1〜116.2% 99.5% 91.2〜107.7% 4.5pt

差の中央値は1.7ポイント。区間はどの行でも大きく重なっています。

傾斜と、同じだけサンプルを削る単純な閾値は、統計的に区別できません。
「捨てない・重みを移すだけ」の実体は、連続的に捨てているだけでした。

ちなみに、我々の事前予測は外れました。
「傾斜は下位にも薄く賭け続けるから、上位だけを買う閾値より薄まるはずだ」と書いていました。
実際は逆で、傾斜のほうが0.8〜4.5ポイント高い。
傾斜は上位 k 点の中でも、さらに上位に寄せ続けるからです。
つまり傾斜は「閾値+もう一段の閾値」で、閾値よりさらに選択的でした。


4. ここで気づきました。これは測る必要がなかった

回収率の定義を、そのまま書き出します。

回収率 = Σ(賭け金 × 払戻倍率)÷ Σ(賭け金)

右辺は、払戻倍率の「重み付き平均」です。

重み付き平均は、どんな重みを選んでも、元の値の最小と最大の間に必ず収まります。
賭け金の決め方をどう変えても、それは重みを変えているだけです。

回収率が100%を超えるには、期待値が100%を超える買い目の集まりが、
どこかに存在していなければならない。

配分は、そこに重みを寄せる以外のことをしていない。

つまり、こうです。

「何を買うかを変えずに、いくら賭けるかだけで110%」という道は、原理的に存在しません。
配分は、選択の言い換えです。独立した第2の軸ではありませんでした。

第2節と第3節の測定は、この式の結果を実データで確認したものになります。
測る前にこの式を書いていれば、6通りの測定は要りませんでした。

4-1. ついでに、2つの計画が同時に消えました

① 2つの買い目の集まりを混ぜる(和集合)

別々に見つけた2つの買い目を合わせれば、回収率が上がるのではないか。
上がりません。 和集合の回収率は2つの回収率を点数で重み付けた平均なので、
必ず両者の間に入ります。良いほうを超えることは絶対にありません。

集合を混ぜる理由があるとすれば、それは回収率ではなく 点数(頻度) です。
判定に必要なサンプルを早く貯めるため。それ以外の理由で混ぜても、何も起きません。

② ケリー基準

資金管理の教科書に出てくる、期待値と配当から最適な賭け金比率を決める方法です。
ケリーは、期待値が正の賭けにしか正の金額を割り当てません。
我々の買い目は全区間で回収率90〜94%=期待値がマイナスです。
ケリーの答えは「賭けない」でした。


5. では、この指数の天井はどこにあるのか

最後に、上界そのものを描きました。上位 k 点だけを買ったときの回収率です。
(良い k を探すための表ではありません。どの配分もこの曲線より上には行けない、
という上限を見るための表です。k の並びは走らせる前に固定しています)

上位 k 点 的中率 回収率 95%区間 判定
7,738 54.6% 93.8% 91.2〜96.6% 不合格
2,000 59.7% 93.9% 89.3〜98.0% 不合格
1,000 62.0% 95.6% 89.5〜101.6% 不合格
500 64.6% 98.7% 89.9〜107.9% 不合格
250 67.6% 110.4% 96.3〜126.2% 不合格
100 69.0% 109.7% 90.0〜130.5% 不合格

上位250点で110.4%。この検証の目標値そのものです。

それでも不合格です。下限が96.3%で、100%を割っています。

そして、この数字を「110%を達成した」と読んではいけない理由が、もう一つあります。

これは上限を描くために引いた曲線の、頂点です。
曲線の頂点を成果として読むのは、循環です。

さらに、250点というのは4年間での話です。1年あたり62点。
仮に本物のエッジだったとしても、それを前向きの記録で確かめるには何年もかかります。

正直な読み方はこうです。
この指数の天井は、過去データで見るかぎり110%前後にある。
そして、その天井まで絞ると、110%と100%を区別できるだけのサンプルが残らない。


6. 何が減って、何が残ったか

減ったもの。
「賭け金の配分」という、まだ手をつけていない探索の方向が1つありました。
それが消えました。「切り口を1つ潰した」のではなく、探索空間が1次元ぶん狭くなった、
というのが正確です。配分を独立の軸だと思って探し続ける時間が、丸ごと不要になりました。

残ったもの。
配分が意味を持つ場面は、まだあります。破産確率と、資産曲線の落ち込み方です。
同じ回収率でも、賭け方によって資金の減り方はまったく違います。
ただしそれは回収率の話ではありません。 この検証の目標は回収率110%なので、
今回はそこには踏み込みません。


7. 弱点(今回も、1つも消していません)

・対象は2021-2024の過去データ。この期間の中で調整した指数を、同じ期間で評価しています
・複勝1点買いのみ。券種を変えていません
・上位の帯は点数が薄く(207点・17点)、用量反応の右端は「効かない」ではなく「測れていない」
・レースの条件やクラスで層を分けていません。この検証が繰り返し落としてきた作法です
・γ=6 の104.1%は実効n=567の数字です。「そこに何かある」の証拠にはなりません

次回予告のようなものは書きません。 今回わかったのは、やらなくていいことが1つ増えた、
というだけです。ただ、この検証では それも前進として数えています。

回収率110%は、「いくら賭けるか」では出ません。「何を買うか」でしか出ません。
33回かかって、そこだけは確実になりました。

何を求めているんだ、私の馬券は。賭け方より、中身だろう。

この後の実験は、地方競馬に舞台を移しています。

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