同じ日に2つの実験をしました。どちらも「比較」でつまずきました。
片方は2つの手法を点推定で比べて勝った気になり、もう片方はグループ分けと買い方が
実は同じものになっていることに気づいていませんでした。
数字自体はどちらも正しく、間違っていたのは読み方だけです。
この検証について
JRAのレースを対象に、公開データだけで回収率110%が成立するかを検証しています。
的中率ではなく回収率を見ます。当たっても払戻が控除率を超えなければ、当たった意味はありません。
これまで80回以上の実験をして、まだ一度も回収率100%を超えていません。
この記事は、その過程で踏んだ比較の落とし穴2つの記録です。
1つめ:0.02ポイント勝っていた。誤差の幅はその18倍だった
何を確かめたかったか
前走で不利を受けた馬は、次のレースで実力より安く売られているのではないか——これは前から追っている筋です。
不利の測り方として、それまで「内寄りか外寄りか」を1本の直線で表す指標を使っていました。
内が0、外が1、という具合です。この指標は、これまでの実験でそこそこ効いていました。
ところが、ある日こう気づきました。
不利は両端にあるのではないか。
外を回された馬は距離を余分に走らされる。
内にいた馬は前が壁になって出せない。
1本の直線で測ると、この2つが打ち消し合ってしまう。
つまり、いま使っている指標は「内で詰まった馬」を有利な側に数えている可能性があります。
だとすれば、これまで観測できていた効果は、打ち消された後の残りかすにすぎません。
そこで「両端ほど大きくなる」形の指標を新しく作り、元の直線の指標と正面から比べることにしました。
事前に決めておいたこと
比べる前に、次のことを文書にして凍結しました。
- 対象データ、グループ分け、判定の基準
- 「新しい指標が古い指標を上回った」と言うための条件
- 予想(どちらがどれくらい勝つか)を先に書いておく
最後の1つが今回の主役です。過去に一度、ここで失敗しているからです。
以前の実験で、2つの手法を比べて「新しいほうが 0.10ポイント上回った」と結論したことがあります。
そのとき、誤差の幅はその10倍ありました。 つまり「上回った」と言える根拠は何もなく、
たまたま点が上に出ただけでした。
そこで今回は、条件をこう書きました。
2つの手法の差そのものに信頼区間を付ける。区間の下限が0を超えたときだけ「上回った」と書く。
点推定の大小比較は結論に使わない。
結果
新しい指標は、古い指標を上回りませんでした。
3つのグループすべてで、差の信頼区間が0をまたぎました。
いちばん成績が良かったグループでも、差はわずか +0.02ポイントでした。
そして、その 差の誤差の幅は、差そのものの約18倍ありました。
もし点推定の大小で判定していたら、「+0.02ポイント上回った」と書いていたはずです。
事前に区間を要求しておいたおかげで、そう書かずに済みました。
これは「以前と同じ失敗を、2回目で回避できた」という記録です。
同じ罠に落ちなかった回のほうが、落ちた回より書く価値があると思っています。
ただし、仮説が全部外れたわけではない
面白いのはここからです。「両端に不利がある」という見立て自体は、部分的に当たっていました。
- 外を回された馬は、中くらいの頭数のレースで明確に効いていました
- 内で詰まった馬は、多頭数のレースで効いていました
- どちらも年ごとに符号が一貫していました
つまり両端はそれぞれ効くのに、1つの指標にまとめると元の直線を超えない。
両端を足し合わせる作り方が悪かったのか、それとも直線の指標が既に両方を拾えていたのか——
そこはこの実験では決まりません。決まらないことも、決まったこととして書きます。
そして予想外の収穫が1つありました。前走で誰にも囲まれず単独で走っていた馬は、
次のレースで明確に「買われすぎ」でした。年ごとに一貫して、はっきり負けています。
効かないほうに賭けた予想が、いちばんよく当たりました。
2つめ:グループ分けが、そのまま買い方になっていた
何を確かめたかったか
もう1つの実験は、こういう問いから始まりました。
人気馬がどれくらい信頼できるかは、オッズを見れば市場の考えが分かる。
では、市場とは別の物差しで信頼度を測れないか。
それができれば、市場より有利にレースを選べるはずだ。
手元には市場と無関係な物差しが1つあります。オッズも人気も過去の着順も使わない指標です。
そこで、「1番人気の馬が、その物差しで何位か」でレースをグループ分けしました。
1番人気が我々の物差しでも1位なら、市場と我々の意見は一致しています。
1番人気が我々の物差しで下位なら、意見が食い違っているレースです。
「意見が食い違うレースほど荒れるはずだ。そこを狙えば有利ではないか」——これが仮説です。
第1段階は、きれいに成立しました
グループ分けは狙いどおりに働きました。1番人気の複勝率が、グループを移るごとに単調に下がります。
市場と一致するグループ 69.0%
やや食い違うグループ 67.4%
かなり食い違うグループ 65.0%
大きく食い違うグループ 62.3%
「荒れるレースを事前に見分ける」ことは、確かにできています。
第2段階で、また落ちました
では、その荒れるレースで我々の物差しが推す馬を買うとどうなるか。
グループ分けをしない場合と、ほとんど変わりませんでした。
いちばん荒れるはずのグループが、むしろいちばん低い回収率でした。
同じ形は前にも一度あります。同じグループ分けで別の買い方を試したときも、
グループ分けなしの成績を超えられませんでした。
「荒れるレースを当てる」は2回とも成功し、「そこで何を買うか」が2回とも失敗しました。
機構は実在するのに、換金する手がありません。
そして、いちばん危なかったのはここです
グループ分けの表を見たとき、1つのグループだけ、成績が飛び抜けて良かったのです。
回収率は他より5ポイント以上高く、統計的にも文句なしに見えました。
もう少しで「このグループだけは効いている」と書くところでした。
書かずに済んだのは、数字の並びに違和感があったからです。
そのグループの的中率が、「1番人気の複勝率」と小数点以下まで完全に一致していました。
理由は、考えてみれば当たり前でした。
そのグループの定義は「1番人気の馬が、我々の物差しでも1位」です。
そして買い方は「我々の物差しで1位の馬を買う」です。
つまりこのグループでは、買っている馬が1番人気そのものでした。
グループの定義と買い方が、同じ馬を指していたのです。
その成績は手法の効果ではなく、「1番人気を買うとどうなるか」を別経路で測り直しただけでした。
3つの独立な確認
いったん疑ってからは、裏付けは簡単に取れました。
- オッズ帯の中での位置が偏っていました。 そのグループだけ、同じオッズ帯の中で
系統的に安いほうの馬を買っていました。手法の効果ではなく、価格の抜き取りです - 最低オッズの条件を1つ足すと、成績が反転しました。 対象が半分に減り、
プラスだった数字がマイナスになりました。他のグループはほとんど動きませんでした - 年ごとの数字が壊れていました。 片方の年は大きくマイナス、もう片方は極端なプラスです。
他のグループは年ごとに +1〜+3 の範囲に収まっていました
3つとも、同じ結論を別の角度から指しています。
覚えて帰るなら、この2つ
その1:差を主張するなら、差そのものに区間を付ける
AとBを比べて「Aのほうが良かった」と言いたいとき、
Aの区間とBの区間を別々に出して見比べても、判定にはなりません。
必要なのは A−B という量そのものの区間です。
このとき、AとBは同じ再標本から作る必要があります(同じレースの引きを共有する)。
別々に作った区間の引き算では、ばらつきを二重に数えてしまいます。
その2:グループ分けの条件と、買う条件が重なっていないか先に確かめる
これは今回はじめて言語化できたルールです。
グループ分けに使った量と、買う馬を選ぶ量が同じだと、
あるグループで「グループ=買い目」に縮退することがある。
そのセルの成績は手法の効果ではなく、グループの定義そのものの成績になる。
しかも縮退したセルは、たいてい成績が良く見えます。
今回のように「1番人気を買っているだけ」なら、当たり前に当たります。
だから気づきにくく、気づかないまま「この条件では効く」と書いてしまいます。
機械的に確かめる方法も1つ用意しました。
各グループについて
重なり率 =(買った馬 ∩ グループ分けに使った馬)÷ 買った馬
この値がグループによって 0 か 1 に張り付くなら、その層別は縮退している
今回のケースでは、この計算だけで、データを1行も読まずに棄却できます。
定義から答えが出るからです。
ただしこれで全部は拾えません。馬としては一度も重ならないのに、
片方が決まれば他方が機械的に決まる——という従属もあります。
複勝の配分は全体で1になるので、ある馬の評価が下がれば残りは自動的に上がります。
そこは重なり率では見えないので、別の確認が要ります。
今回わかっていないこと
- どちらの実験も、過去データの中での話です。 これから走るレースで同じになる保証はありません
- 儲かるようにはなっていません。 効いた項目も、回収率は100%に遠く届きません
- 「両端の不利」をうまくまとめる方法があるのかどうかは、決まっていません
- 「荒れるレースで何を買えばいいか」は、2回試して2回とも答えが出ていません
次にやること
「荒れるレースを見分けられる」ことは2回とも確認できました。
足りないのは、そこで何を買うかです。
ただし同じデータを何度も掘り直すのはやめます。
条件を後から足して数字を良くするのは、これまで5回試して5回とも消えています。
いま進めているのは、これから走るレースだけを記録し続けるやり方です。
判定は先の話ですが、条件を先に凍結してから貯めた記録だけが、本当の答えになります。
この記事は実験の記録です。馬券の購入を勧めるものではありません。
記載した数値はすべて過去データに対する測定値で、将来の成績を示すものではありません。
違う店に入ったつもりが、同じ暖簾をくぐっていた。


