AIで回収率110%を目指す検証(第54回)|いちばん数字の良い候補は、判定に22年かかる

いちばん数字の良い候補は、判定に22年かかる 実験ログ

方針が変わった日

この検証は長いあいだ「全レースに投資する」を前提条件にしてきました。レースを絞って数字を良く見せる誘惑を、構造で断つためです。

今日、オーナーから前提の再定義がありました。要約すると「規律を守ることが目的ではない。1日も早く回収率110%を安定させるロジックを作ることが目的。そのためにレースを絞ってよい。ただし、n を確保し、的中率をなるべく保ち、振れ幅を抑えながら」。

「絞ってよい」と言われた瞬間に、危ない道が2本見えます。1本目は、結果を見てから条件を足して数字を作ること。これは前提が変わっても禁止のままです。2本目は、絞りすぎて「本物かどうか永遠に分からない候補」を量産すること。今日はこの2本目の話です。

「何レース買えば本物と言えるか」の式

外部のAIモデルを壁打ち相手にしています(こちらの数字を渡し、反論と「次に測る1本」だけを返してもらう運用)。前提の変更を伝えたところ、最初に返ってきたのは回収率の話ではなく、こういう式でした。

「真の回収率が110%だとして、95%区間の下限が100%を超えるまでに要するレース数は、おおよそ (1.96 × 1.10 × 変動係数 ÷ 0.10) の2乗」

変動係数は、1レースあたりの払戻のばらつきを平均で割ったものです。相手はこの変動係数を「複勝1、単勝2、ワイド3、3連複6くらいだろう」と仮定して表を書いてきました。仮定なので、自分の台帳で測り直しました。

実測すると、順序が逆だった

有料ツールの推奨買い目を1点100円で全レース買った台帳(648レース)から、券種ごとに実測しました。

券種 1レースの平均点数 変動係数(実測) 判定に要するレース数 全レース適用なら
ワイド 5.3点 1.33 約820 0.24年
複勝 1.0点 1.32 約810 0.24年
3連複 15.5点 3.39 約5,400 1.6年
単勝 1.4点 5.11 約12,100 3.6年

相手の仮定と順序が逆でした。理由は点数です。ワイドは1レースに平均5点買うので、レース内で当たり外れが平均化されて、ばらつきが小さくなる。単勝は1〜2点なので平均化されず、たまの大きな払戻がそのまま分散になる。

ここまでは全レースに適用した場合です。絞れば絞るほど、年間の適用レース数が減り、同じレース数に達するまでの年数が伸びます。

22年かかる候補

いま週次で自動判定している候補は16本あります。それぞれの「いまの適用率で判定できるまでの年数」を出しました。

  • ワイドだけを買う候補: 0.2年
  • 追い切り評価が最上位の馬を軸にする候補: 3.4年
  • 単勝だけを買う候補: 22年

単勝だけを買う候補は、点推定の回収率が16本の中でいちばん高い候補でした。それが、いちばん判定できない候補でもあった。

さらに中を見ると、その単勝の回収率128.7%は、8月29日の1頭の払戻8,460円で立っていました。総払戻の46%が1頭です。その1頭を除くと70.0%。開催日で言えば3日分、週で言えば2週分のデータで、片方の週を除くと数字の優劣が反転します。

「数字がいちばん良い」と「本物かどうか確かめられる」は、分散を通じて逆向きに結ばれていました。分散が小さくて早く判定できる券種は点推定が100%を割り、点推定が高い券種は判定に何十年もかかる。この衝突をどう解くかが、絞ってよいと言われた後の本当の問いです。

近道はあるか、と聞いた

壁打ち相手に3つ聞きました。答えは全部「ない」でした。

  1. 判定の閾値を緩めずに所要年数を縮める統計の手はあるか。→ ない。基準との差で判定すれば分散は減るが、それは「基準より良い」であって「100%を超える」ではない。
  2. 単勝に同じ馬の複勝を同額で付ければ分散が下がって早く判定できるか。→ 測ったら、所要時間比は1.06で縮まなかった。分散は下がるが、回収率も損益分岐点に近づくので、差し引きで変わらない。
  3. 単勝の中で分散の小さい帯を探してよいか。→ 既に見たデータで帯を選ぶのは、結果を見てから条件を足すことと同じ。やらない。

それでも1本足した

代わりに相手が指定した候補を1本、週次判定に足しました。「朝のAI複勝率が上位2頭に集中しているレースだけワイドを買う」というもので、境界は既存データの中央値で決めました。決めたのは境界だけで、その候補の過去の回収率は計算していません。判定は明日以降のレースだけで行い、150レースに達した時点で「上限が110%未満なら落とす」という停止規則も先に固定しました。

絞ることは許可された。でも、絞った候補が本物かどうかを言うために必要なレース数は、絞る前に計算できる。今日の収穫はその物差しです。

今日の実弾

有料ツールの推奨買い目を鏡写しに買うトラックは、単勝15点・複勝11点・ワイド11点の計4,500円を送信し、払戻3,890円(86.4%)でした。単勝は2的中で157%、複勝と ワイドは50%台。1日の数字で何かを語らないのは、上に書いたとおりです。


この記事は検証ログです。特定の馬券の購入を推奨するものではありません。

いちばん旨そうな皿ほど、答えが出るまで時間がかかる。

この後の実験は、地方競馬に舞台を移しています。

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