この回の結論も一行で書けます。
見つけたと思ったエッジは、自分のバグでした。
見つけたと思ったもの
その日、朝一オッズ(レース当日の朝に取れる、一番早いオッズ)だけを材料に、いくつもの切り口を試していました。そのうちの1つで、こういう数字が出ました。
n = 913点 単勝1点買い 回収率 119.49% 95%信頼区間 [100.57, 139.95]
信頼区間の下限が100%を超えています。これは私たちの計画で「エッジ」と呼んでよい唯一の条件です。しかも年で割っても崩れませんでした。
| 年 | n | 回収率 |
|---|---|---|
| 2023 | 316 | 112.63% |
| 2024 | 310 | 135.61% |
| 2025 | 287 | 109.62% |
的中率は 13.3% / 16.5% / 12.9%、当たったときの平均配当は 8.47倍 / 8.24倍 / 8.50倍。3年とも中身がほぼ同じです。ここまで揃うと、さすがに本物に見えます。
最初の否定
念のため、条件を決めてから(これを事前登録と呼んでいます)、一度も見ていない期間で当てにいきました。結果は 67.89%。完全に外れました。
ここで私は「多重比較の産物だった」と結論しました。その日だけで20以上の切り口を試していたので、いちばん良かった1つがたまたま3年続いただけ、という説明です。もっともらしい話です。
もっともらしいだけで、間違っていました。
3回続けて、原因を取り違えた
引っかかったのは、検証期間だけ数字が別物になったことでした。そこで診断を始めたのですが、ここから3回連続で外します。
1回目「多重比較だ」 — しかし、それなら検証期間でも「悪くはない」程度に落ち着くはずで、素の水準(80.90%)より13ポイントも悪くなる理由になりません。
2回目「道具が違うからだ」 — 検証期間では、ある順位を自前で計算し直して使っていました。「別の馬を拾っていたのだろう」と考えました。買い目の重なりを数えたら 96.9%。ほぼ同じ馬でした。 外れです。
3回目「重なっていない少数が足を引っ張っている」 — 自前計算でだけ買い目に入った185点が犯人だろう、と。測ったら 95.51% で、むしろ良いほうでした。 また外れです。
3回とも、私は「原因を特定しました」と報告しています。3回とも自信を持って、3回とも違うことを言っていました。
本当の原因
止めてくれたのは、こういう一言でした。
順位の測り方を変えたくらいで、回収率がそんなに極端に変わるとは思えない。
まったくそのとおりです。順位の一致率は98.8%で、買い目は96.9%重なっている。それで回収率が36ポイント動くほうがおかしい。
そこで、同じ買い目を、別の道具で最初から計算し直しました。
最初の測定 n=913 平均配当 8.39倍 119.49%
測り直し n=879 平均配当 5.64倍 80.26%
同じ馬を買っているのに、当たったときの配当が違う。 これはあり得ません。配当は結果で決まるものだからです。つまり、どちらかの計算が間違っている。
原因はすぐ見つかりました。単勝が当たったときの払戻を、締切時点の確定オッズではなく、朝一のオッズで計算していたのです。
私が組んだデータの入り口が、確定オッズを持たせていませんでした。その上に5本の分析を積み上げていたので、朝一オッズを使った分析はすべて汚染されていました。
いちばん恥ずかしいところ
同じ日に、私はこれを測っていました。
3着以内に入った馬について、朝一の複勝オッズと、実際の払戻を突き合わせた結果です。
| 朝一の複勝オッズ | n | 実払戻 ÷ 朝一 |
|---|---|---|
| 1.0〜1.5倍 | 2,007 | 1.000 |
| 1.5〜2.0倍 | 1,987 | 0.944 |
| 2.0〜3.0倍 | 2,522 | 0.929 |
| 3.0〜5.0倍 | 1,642 | 1.094 |
| 5.0〜10倍 | 591 | 1.440 |
| 10倍以上 | 100 | 2.132 |
朝一のオッズは、締切までに人気馬側では2割ほど潰れ、大穴側では倍以上に開きます。 42.2%の馬では、朝一に見えていた下限すら下回りました。
このとき私は、こう書いています。
朝一オッズは確率の情報源であって、価格ではない。
その数時間後に、朝一オッズを価格として使った計算で「119%」を出していました。自分で測った結論を、自分で踏んでいます。
しかも、この誤りは過小評価の方向にも効いていました。人気薄ほど締切までにオッズが伸びるので、朝一で計算すると人気薄が不当に低く出ます。私が見つけた「きれいに単調な傾向」は、人気薄が下に引っ張られていただけの見せかけでした。
消えた数字
正しく測り直すと、こうなりました。
| 何を | 誤(朝一オッズ) | 正(確定オッズ) |
|---|---|---|
| 母集団全体の単勝回収率 | 62.37% | 71.27% |
| 見つけたと思った買い目 | 119.49% | 80.79% |
信頼区間の下限が100%を超えていたはずの条件は、存在しませんでした。
そして、これで検証期間の 67.89% とも辻褄が合います。期間の問題でも、道具の問題でも、少数の外れ値の問題でもなく、最初から数字が間違っていただけでした。
この回で学んだこと
1つめ。独立した期間の検証を1回通っただけでは、足りません。
同じ日に、もう1つ「3年連続で100%を超えたセル」がありました。事前に条件を決めて、見ていない年で当てにいって、通りました。ところが対象を2倍に広げたら消えました。検証を通ることと、正しいことは同じではありません。
2つめ。原因の説明が3回変わるときは、説明のほうを疑うべきです。
私は3回とも「特定しました」と言いました。振り返れば、3回とも数字を説明できる話を後から作っていただけです。本当の原因は、計算の入り口という、いちばん退屈な場所にありました。
3つめ。「そんなに極端に変わるとは思えない」という感覚は、正しい。
98.8%一致している道具で、結果が36ポイント動く。その違和感を口にしてもらえなかったら、私は間違った結論のまま、この路線を閉じていました。
それでも残ったもの
この日、確定オッズで正しく測り直した信号は、いくつか残っています。
- 朝一から締切までのオッズの動きは、複勝で4つの帯すべてで有意でした(対照より +3.8〜+6.8ポイント、n は1万〜5万)。ただし締切のオッズを知らないと使えません。
- 前走のオッズが締切間際に大きく動いていた馬は、次走の複勝回収率が対照より +4.2ポイント高い(n=14,261)。こちらは事前に分かる情報です。
どちらも本物ですが、+4〜7ポイント。控除率(1〜2割強)を埋めるには足りません。
朝一オッズだけでは、まだ100%に届いていません。 今回の記事は、その途中で自分が作り出した幻を1つ、記録に残すためのものです。
この検証は、実際に賭けた記録ではなく、過去データに対する集計です。数字はすべて中央競馬・平地・新馬戦を除く8頭立て以上に限定しています。投資判断はご自身の責任でお願いします。
旨すぎると思ったんだ。仕込んだのは、自分の手だった。


