AIでJRAの回収率110%を目指す検証(第17回・論文形式の総括)|JRA公開データだけで市場を上回れるか

JRA公開データだけで市場を上回れるか 実験ログ

第1回から第16回までは、ひとつの記事でひとつのテーマを扱ってきました。今回は形式を変え、これまでの検証全体をひとつの記録としてまとめます。目的、データ、方法、32系統の結果、判定の作法、そして5回の失敗の記録です。実際に賭けた金額は0円のままです。

目的と仮説

この検証の目的は、JRA中央競馬において回収率110%を継続的に達成する馬券の買い方を、公開データのみから機械的に構築できるかを確かめることです。

作業仮説は次の3つでした。

# 仮説
H-A 複数の券種のあいだに、控除率を超える大きさの価格の食い違いが残っている
H-B 公開データから作った確率推定を市場のオッズに足すと、予測の増分が得られる
H-C 予測ではなく回収率そのものを目的関数に置けば、尤度では見えない構造が現れる

このいずれかが成立すれば、期待値が100%を超える買い目を機械的に選別できます。判定の水準は最初に固定しました。回収率の95%信頼区間の下限が100%を超えたときにのみエッジと呼ぶ、というものです。点推定が100%を超えただけでは足りません。

前提として、JRAの払戻率は券種によって異なります。

券種 払戻率 必要な的中の脚
単勝・複勝 80.0% 1
ワイド・馬連・馬単・枠連 77.5% 2
3連複 75.0% 3
3連単 72.5% 3

無作為に買えば平均して2割が消えます。110%に到達するには、複勝を基準にしても約30ポイントの上積みが必要になります。この距離が、以降のすべての判断の基準になりました。

データと方法

データ

項目 内容
一次データ JRA-VAN Data Lab(蓄積系・速報系)
取り込み PC-KEIBA経由でPostgreSQLへ格納。分析は読み取り専用の自作Pythonのみ
期間 2021年1月〜2026年6月
標本規模 約24万出走馬 / 約1.9万レース
速報系オッズ スナップショット 294万件(取り込み完了時点・被覆率100%)
調教データ 坂路・ウッドあわせて1,000万行規模
外部データ JRA公式アーカイブのクッション値・含水率(2,252開催日・10競馬場・取得費用0円)

主たる対象は複勝です。理由は2つあります。払戻率が最も高いこと、そして1レースで3頭が的中するため、同じレース数でも測定に使える標本が多く取れることです。

使用しなかったデータ

jvd_um(馬マスタの生涯成績)は使っていません。これは「現在時点」の累積であり、過去のレースに紐付けると当該レース以降の結果を含みます。重大なリークになるため、すべての成績特徴量は出走履歴テーブルから「当該レースより前」だけを積み上げて生成しました。

またJRA-VANの一部の項目では、「0」が欠損の代替値として入ります。走破時計、前半・後半3ハロン、4角通過順が該当します。これを有効値として扱うと結果が壊れます。実際に一度壊れました(後述)。

判定の枠組み

全実験を通じて、次の枠組みを固定しました。

  1. 仮説と判定基準を結果を見る前に文章として記録する(事前登録)
  2. 回収率には常に95%信頼区間を併記する
  3. 同一レース内の複数の買い目は相関するため、レース単位のクラスタで区間を算出する
  4. モデルの上積みはアウトオブフォールドで測る
  5. オッズ層で層別し、同じ人気構成の対照群と比較する(交絡除去)
  6. 複数の区分を見るときは判定に使う区分を事前に決める

3の処理は数値に大きく効きます。模擬データで確認したところ、素の信頼区間が±7.3ポイントだったものが、レース単位でまとめると±20.8ポイントになりました。約3倍です。この処理を省いていれば、誤検出をひとつ増やしていた計算になります。

32系統の結果一覧

検証した系統と結果は次のとおりです。すべて否定されています。

# 系統 主な結果
① 複勝の市場内アービトラージ(Dr Z法) 閾値を上げても改善せず、控除率の裏返しに張り付き
② ワイドの市場内アービトラージ 77〜78%で平坦
③ 時系列オッズ(直前の資金移動・尤度目的) 相関はあるが不足(98.2% → 74.5%)
④ 条件別適性・騎手厩舎・調子 ブレンド重み +0.042
⑤ 調教データ +0.046(事前基準 +0.15 に届かず)
⑥ レース選別(荒れ具合の予測) 交絡除去で消滅
⑦ 群衆の質(レース番号・天候・グレード) 避ける場所は分かるが100%を作らない
⑧ 極端な断然人気 98%で構造的に頭打ち
⑨ 文献どおりのPlackett-Luceモデル ブレンド重み −0.046
⑩ ペース分析・セグメント別 −0.057、候補ゼロ
⑪ 多頭数レース(事前登録・1回限り) β +0.078、z 1.409 で棄却域に届かず
⑫ 追っていない時計の除去 AUC 0.5502 → 0.4842。逆に予測する
⑬ 追っていない前走の市場過小評価 71.6% vs 71.5%。的中率差は価格に織り込み済み
⑭ 断然人気を軸にしたワイド 18通り全滅。最良93.6%
⑮ ワイドの相手を自作指数で選ぶ 指数と人気が互角
⑯ 馬場の物理量(外部データ) −0.046。ベースラインと同値
⑰ 妙味度スコア20ファクター 期間を変えると +14.5pt → +5.1pt
⑱ 妙味度スコア44ファクター 期間を揃えて +0.8〜+4.4pt
⑲ 文脈別の係数推定(芝ダ×距離3帯) 2期間とも悪化(−5.4 / −17.8pt)
⑳ 学習データ2倍 方向が逆(−5.2 / +3.6pt)
㉑ レースレベル(前走の相手を事後追跡) 検定A通過・検定B不通過
㉒ スコアとレースレベルの統合 相関ほぼゼロだが統合で改善せず
㉓ レース内で上位k頭を買う 区間幅0.46倍。初の有意な分離だが76.4%
㉔ 確信度によるレース選別 単調性なし
㉕ 単勝でのスコア利用 区間±17.6ptで判定不能
㉖ エッジの形(順位別の診断) 下位に谷。識別できているのは下位側
㉗ 断然人気からの除外(絶対スコア) 的中率が動かず9通り全滅
㉘ レース内順位で断然人気を絞る 符号一致1/3。機構は再現せず
㉙ 時系列オッズ(回収率目的・予備) +15.9pt。ただし計器の欠陥が判明
㉚ 時系列オッズを賭けられる形で測る +2.6pt。第一段階すら不通過
㉛ 時系列オッズを得点に組み込む 3つの判定すべて不通過
㉜ 仮説レジストリ第1回(11件・FDR補正) 通過1件のみ、かつ事前登録と逆符号のため棄却

到達した最良の数字は98.2%です。単勝1.3倍以下の1番人気の複勝、334件、95%信頼区間 95.4〜101.1%。信頼区間の下限が100%を超えた条件はひとつもありません。

否定の内訳

32系統を、否定された理由でまとめ直すと4つに分かれます。

価格の食い違いを使う方向(系統①②⑭⑮)

券種内および券種間の期待値差を使う方向です。複勝で16.6万点、ワイドで78万点を対象に期待値の閾値を振りましたが、閾値を上げても回収率が改善しませんでした。複勝で84% → 83% → 82% → 80% → 76%、ワイドで78% → 78% → 77% → 77% → 71%です。

期待値が高い馬を選ぶほど良くなるはずが、そうならない。これは推定した確率が選抜領域で崩れていることを意味します。

断然人気を軸にしたワイドも18通りすべてで複勝を下回りました。

軸 複勝1点 ワイド最良 差
単勝1.3倍以下 98.0% 93.6% −4.4pt
単勝1.5倍以下 95.6% 85.0% −10.6pt
単勝2.0倍以下 89.1% 82.6% −6.5pt

軸馬の複勝を1点買うほうが、その馬を絡めたどのワイドよりも良い結果になります。 組み合わせ馬券は控除率が2.5ポイント重く、そのうえ価格を出し抜けない2頭目を足す行為だからです。有利な賭けを中立な賭けで薄めれば、結果は薄まります。

予測モデルを強くする方向(系統④⑤⑨⑩⑯)

特徴量を増やし、モデルの形を変え、外部データを足す方向です。指標はすべてブレンド重み、つまり市場のオッズに自作モデルを足したときの上積みで測っています。

段階 特徴量 ブレンド重み
初期(粗い特徴量) 33列 −0.040
条件別適性・騎手厩舎 33列 +0.042
+調教データ 41列 +0.046
Plackett-Luce + スピード指数 — −0.046
+ペース・展開 — −0.057
+馬場の物理量 — −0.046
現在の最良の材料を全部載せ 85列 +0.004

事前に置いた基準は +0.15 でした。特徴量を33列から85列に増やして、上積みは +0.042 から +0.004 に下がりました。

途中で得られた技術的な成果もあります。スピード指数は前走の値の5分位で複勝率が6.7%から21.9%へと3.3倍の開きを作りました。枠順をコース別に標準化するとt値が0.42から7.69へ跳ね、文献の報告値7.51をほぼ再現しました。個々の部品は文献どおりに動いています。それでも市場への上積みが出ません。

買う対象を選別する方向(系統⑥⑦⑧㉓㉔㉖㉗㉘)

レースや馬を選ぶ方向です。ここでは系統⑧が構造を明らかにしました。

単勝オッズ帯 複勝的中率 平均複勝配当 回収率
〜1.1倍 94.9% 1.03倍 97.3%
1.2〜1.3倍 93.4% 1.07倍 99.8%
1.5〜1.8倍 78.8% 1.11倍 87.5%

複勝には元返し1.0倍という配当の下限があります。人気を突き詰めるほど的中率は上がりますが、配当が1.03倍まで薄くなる。的中率の上限と配当の下限が、100%の手前で釣り合います。 年別に見ても100.0%、96.4%、98.4%、99.4%と安定しており、偶然ではありません。

この構造は選び方に依存しませんでした。確率モデルで選んでも、市場のオッズで選んでも、同じ壁に当たります。

選び方 最良の回収率 的中率 到達できる確信度の上限
自作モデルの予測確率 89.9% 82.1% 86.9%
市場の複勝オッズ 92.9% 85.2% 99.9%
単勝1.3倍以下の1番人気 98.4% 93.4% —

モデルは「ほぼ確実」を表明できません。予測確率の最大値が86.9%で、90%以上は1頭も存在しませんでした。市場は99.9%まで表明できます。

なおこの構造から、複勝に「期待値が1を超える馬だけ買う」というフィルタを課しても機能しないことが従います。配当の下限が期待値を1未満に抑えるためです。

系統㉓では、1レースで上位k頭を買うことで測定精度そのものを改善できるかを試しました。

k 買い目 的中率 回収率 95%区間 区間幅 t値
1 4,979 24.2% 75.8% 70.1〜81.4 11.3pt 1.56
3 14,937 24.7% 76.1% 72.9〜79.4 6.5pt 2.94
5 24,895 24.6% 76.4% 73.8〜79.0 5.1pt 3.90
全馬 68,670 21.6% 71.3% 69.7〜72.8 3.2pt —

区間幅が0.46倍に縮み、この検証で初めて母集団との有意な分離が得られました(t=3.90、p<0.001)。同時に、エッジが1頭に集中しておらず上位5頭に広がっていることも分かりました。

ただし76.4%です。100%までの距離は28.7ポイント。得られたエッジの5.6倍が必要という計算になります。

情報の鮮度を使う方向(系統③㉙㉚㉛)

締切直前の資金移動を使う方向です。第2回から追ってきた系統で、最後まで残りました。

結論は、情報は存在するが締切後に集中しているというものでした。同じ標本で、締切前だけで作った指標と確定オッズを使う指標を並べたところ、正の重みを受け取ったのは確定オッズを使う指標だけでした。締切前に観測できる指標を足すと、何も足さないより2.5ポイント悪化します。

測れる情報と、賭けられる情報は別物です。

検証の作法

この検証で最も価値があったのは、否定結果そのものではなく、誤りを見つける手順だったと考えています。以下は8項目まで増えました。

  1. 信頼区間を必ず併記し、下限が基準を超えるまでエッジと呼ばない
  2. ブレンド重みはアウトオブフォールドで測る(学習に使ったデータ上の予測を使わない)
  3. 交絡を除去する(オッズ層で層別し、同じ人気構成の対照と比較する)
  4. 多重比較に配慮する(複数の区分を見るときは事前に判定基準を固定する)
  5. 否定結果の直後に条件をいじらない(停止条件は結果を見る前に決める)
  6. 分布を検算する(0や極端値が有効値として混入していないか)
  7. 同じ標本に「別物のはずの量」を必ず並べる
  8. 母集団が動いている間は測らない(データ取り込み中の実行結果同士は比較できない)

7と8は後半で追加したものです。7が効いた場面を記録しておきます。

ある測定で、賭けられる形の指標と賭けられない形の指標を同じ標本で並べたところ、両者が小数点以下まで完全に一致しました。分子が違う量なので、偶然ではありえません。参照点の取り方が誤っており、締切前を名乗った値が実際には確定オッズだったことが判明しました。

判定に使う予定のなかった参照行が、判定そのものを止めました。 並べていなければ +17.8ポイントを信号として読んでいたはずです。

もうひとつ、事前登録が守られた例です。ある実験の副次的な出力で、3つの独立した閾値すべてで的中率が上がり、しかもフィルタを強くするほど効くという、非常に説得力のある形が出ました。事前登録には「副次は判定に使わない」と書いてありました。そこで仕様を1文字も変えず、別の学習期で測り直しました。

結果は符号の一致が1/3。再現しませんでした。 昇格させていれば誤検出をひとつ増やしていたことになります。

ルールは、都合の悪いときに守られて初めて意味を持ちます。

「消えた数字」5回の記録

有望に見えた数字が消える経験を5回しました。原因はすべて異なります。

回 見かけの数字 正しく測った数字 原因
第2回 回収率 98.2%(107件) 74.5%(1,788件) 標本不足
第7回 ブレンド重み +0.371 +0.042 学習データ上の予測を使っていた(リーク)
第8回 複勝率 14.6% → 25.6% 消滅 32.7%のレースに欠損値0が混入
第14回 リフト +14.5pt +5.1pt(有意でない) 期間固有のばらつき
第15回 対照差 +15.9pt +2.6pt 締切の代理に使った時点が確定オッズだった

順に説明します。

第2回は107件での98.2%でした。信頼区間の幅は約66〜130%です。標本を17倍に増やすと74.5%になりました。点推定だけを見ていれば「エッジ発見」と書いていた数字です。

第7回は、モデルが学習に使ったデータ上の予測からブレンド重みを算出していました。勾配ブースティングは学習データを部分的に記憶するため、モデル側の重みが構造的に過大になります。アウトオブフォールドで測り直すと +0.371 が +0.042 に落ちました。

第8回は欠損値の混入です。前半・後半3ハロンと4角通過順の「0」を有効値として扱っていました。障害競走や直線コースで発生し、32.7%のレースが不正な分類になっていました。修正すると差が完全に消えました。

第14回は期間です。同じ20ファクターで、検証する期間を変えるだけで +14.5ポイントが +5.1ポイントになりました。ファクター数を44に倍増しても +5.9ポイントでほとんど動きません。原因はファクターではなく期間でした。

この回については、自己批判として記録すべき点があります。当時、上位10%の信頼区間の下限が74.7%、母集団の上限が73.9%で、1ポイントしか離れていませんでした。それを見ていながら「初めて有意な信号」と書いています。かろうじて有意なものを有意と書いた時点で、作法の1番目を自分の期待に合わせて緩めていたことになります。

第15回は計器の欠陥です。当日の最終スナップショットを投票締切の代理として使っていましたが、そのレコードはレース後に配信される確定オッズでした。発走時刻を基準に張り替えて測り直すと、+15.9ポイントが +2.6ポイントになりました。

さらに、6回目になりかけた数字を1件、未然に潰しています。診断の途中で「市場の確率と複勝オッズから期待値を計算し、1を超える馬を買うと113.4%」という結果が出ました。数式を追ったところ、この期待値は約分によって馬に依存しない、レース単位の定数になることが分かりました。実測でもレース内のばらつきはゼロでした。選ばれていたのは「配当の代用値が実際の払戻を過大評価するレース」でした。

測定精度と効果量の関係

この検証の結論を決めたのは、5回の失敗そのものではなく、測定精度の推定値です。

ある実験で、学習期間もファクターもモデルも同一のはずの設定を再実行したところ、結果が一致しませんでした。

設定 1回目 2回目 ずれ
検証期A 77.6% 74.9% −2.7pt
検証期B 89.9% 84.9% −5.0pt

原因はバグではありませんでした。2回目はより古い年から読み込んでおり、その結果、前走由来の特徴量が期首付近の馬についても埋まるようになっていたためです。データとしてはむしろ良くなっています。しかし「同じ設定」という前提が誤っていました。

読み込み範囲を変えるだけで、特徴量の中身が変わります。

ここから、4つの操作の効果を並べると構造が見えます。

操作 検証期A 検証期B 一貫性
ファクターを20から44に増やす +0.8pt +4.4pt 一貫(改善)
文脈で6分割する −5.4pt −17.8pt 一貫(悪化)
学習データを2倍にする −5.2pt +3.6pt 方向が逆
読み込み範囲を変える(設定は同一) −2.7pt −5.0pt —
検証期を変える 9〜15pt 支配的

測定の精度が約5ポイント。追っている効果が +5〜18ポイント。同じオーダーです。

この状態では、何を足しても引いても有意な判定ができません。改善したように見えても、それが操作の効果なのか測定のばらつきなのかを区別できない領域にいます。

なお、この表からもうひとつ読み取れることがあります。パラメータを増やすこと自体は害ではなく、データを分割することが害であるという点です。ファクターを倍にしても悪化しませんが、文脈で6分割すると母集団水準まで落ちます。推定に使えるデータ量が律速だという読みと整合します。

モデルの精度についての診断

「市場に勝てない」を、もう少し正確な言葉に置き換えておきます。

確率の較正は正しい

予測確率の階層別に、実際の的中率を並べた結果です(評価期 2025-2026、71,645頭)。

階層 予測 実際 誤差
1 1.5% 0.9% −0.5pt
4 8.8% 8.8% ±0.0pt
6 18.2% 18.3% ±0.0pt
8 32.5% 32.6% ±0.0pt
10 63.1% 65.1% +1.9pt

中間の8階層で誤差は0.0〜0.2ポイントです。「30%と言ったら30%来る」が成立しています。

較正と識別力を分ける

較正が良いことと、役に立つことは別です。常に母集団平均と答えるモデルも較正は完璧ですが、何の役にも立ちません。Murphy分解で分けました。

確率の出所 信頼性(低いほど良い) 分解能(高いほど良い) Brierスコア
自作モデル 0.00007 0.03856 0.13010
市場(複勝オッズ) 0.00010 0.04016 0.12876

較正ではモデルが勝ち、識別力では市場が勝ちます。 そして総合では市場が勝ちます。

差が最も分かりやすく出るのは次の1行です。

「85%以上」と言えた馬 「2%以下」と言えた馬
自作モデル 24頭 5,353頭
市場 930頭 5,627頭

39倍の差です。 モデルは分からないものを「分からない」と正しく言うため較正が良い。しかしその無知の量が市場より多い、という構造です。

食い違ったとき、どちらが正しいか

オッズと人気を完全に除いた説明変数87列だけでモデルを作り、市場と意見が食い違う度合いで階層に分けました。

階層 食い違い 市場の予測 モデルの予測 実際 市場の誤差 モデルの誤差
1 −21.9pt 54.6% 32.6% 54.0% −0.5pt +21.4pt
5 +1.4pt 11.6% 13.0% 11.1% −0.4pt −1.9pt
10 +15.8pt 14.4% 30.1% 15.4% +1.0pt −14.7pt

モデルが21.9ポイント違うことを言っても、市場は0.5ポイント以内で当てます。

決定的なのは、実際の値が両者の中間に来ていないことです。食い違いが単なるノイズなら中間に落ちるはずですが、実際には市場の予測にほぼ完全に一致します。10階層すべてで市場の誤差は±1.0ポイント以内でした。

オッズを外すと識別力は市場比で24%落ちます。公開データのファンダメンタルズで再現できるのは、市場が持つ情報の76%です。

何が効いていたか

説明変数の寄与を並べ替えで測定した結果です(評価期40,000頭)。

ブロック 列数 対数損失の悪化
基本(過去成績・騎手・条件適性) 33 +0.08670
俗説ファクター 39 +0.01440
スピード指数 5 +0.01109
調教 8 +0.00218
レースレベル 2 +0.00058

個別では、過去平均着順、過去勝率、騎手の複勝率が上位を占めました。4位は出走頭数です。これは能力ではなく構造で、8頭立てなら3着以内は3/8、18頭立てなら3/18になります。モデルの説明力の相当部分が、頭数を知っていることから来ています。

大量に取り込んだ調教データの寄与は、基本ブロックの1/40でした。

伸びしろが残っていた箇所

否定続きのなかで、ひとつだけ明確に効いた変更があります。レース内の相対情報を特徴量に加えることです。

モデル 分解能 列数
絶対値のみ 0.02773 87
+レース内の順位・平均からの偏差 0.03151 121

+13.6%。 主要17項目のレース内順位と偏差を足しただけです。

きっかけは、寄与度の測定で出走頭数が4位に来ていたことでした。モデルが各馬を独立に扱っており、レース内の相対情報を持っていなかった。データを足す方向は行き詰まっていましたが、モデルの作り方には伸びしろが残っていました。

標本規模の壁

以上を踏まえた考察です。

JRAの中央競馬は年間およそ3,400レースです。5年半分を集めても約1.9万レース、複勝で3頭が的中することを使っても、上位k頭を買う設計で得られる標本は数万点にとどまります。

このとき、回収率の95%信頼区間の幅は、実測で次の水準になりました。

設計 レース数 区間幅
1レース1点 4,979 11.3pt
1レース5点 4,979 5.1pt
単勝1点 4,979 ±17.6pt

そして測定した最大のエッジが +5.1ポイント、必要な上積みが約28ポイントです。

ここから2つのことが言えます。

第一に、110%という目標は外れ値の水準です。 日本で継続的な回収率100%超が裁判記録として認定された事例は複数ありますが、その通算回収率は104.9%と107.8%でした。105%前後が現実的な水準であって、110%はそれを上回ります。

第二に、105%のエッジがあったとしても、趣味の規模では検出できません。

年間投票額 105%での粗利 エッジ検出に必要な期間
12万円 6,000円 約3.7年
100万円 5万円 約5ヶ月
500万円 25万円 約1ヶ月

回収率が100%を超えているかどうかを統計的に確認するのに必要な期間は、賭ける金額ではなく試行数で決まります。年間150点規模では、1年の成績が偶然で上下に振れる幅のほうが、追っている効果より大きくなります。

技術の問題ではなく、構造の問題です。

したがって、この検証の制約は次のように整理されます。

JRAの年間レース数が測定精度の上限を決め、その測定精度が追っている効果と同じ大きさになる。手法の工夫では、この関係は埋まりません。

結論

3つの作業仮説について、それぞれ次の結果でした。

仮説 結果
H-A 券種間に控除率を超える食い違いが残る 期待値の閾値を上げても改善せず。否定
H-B 公開データの確率推定が市場に増分を与える 85列でブレンド重み +0.004。否定
H-C 回収率を目的関数にすれば構造が現れる 信号は実在するが +5.1pt。必要量の1/5.6

JRA-VAN Data Labの公開データから作った特徴量には、市場を上回る情報が残っていませんでした。

この言い方は意図的に限定しています。「競馬で勝てない」でも「公開情報はすべて織り込まれている」でもありません。検証したのは、レース結果、確定オッズ、払戻、調教時計、馬体重、騎手・厩舎、血統コード、走破時計、上がり3ハロン、通過順、そして締切前のオッズという数値として提供されるデータから作った特徴量です。その範囲では、市場に勝てるものが見つかりませんでした。

最も重要な発見は、モデルの精度そのものではありませんでした。我々のモデルは識別力で市場に4%しか劣っていません。それでも上積みがゼロです。

理由は使っている情報の性質にあります。騎手、斤量、近走成績、枠順、調教時計、馬場、血統。すべて投票者も見ているものです。 同じ情報から同じ結論を出すなら、市場の劣化版にしかなりません。

対照的に、文献に記録された成功例のモデルは、市場に対する劣位が18%と我々より大きい状態で勝っています。

市場に近いことは資格ではありません。市場と違っていて、しかも正しいことが要ります。

限界と留保

この記録の射程を明示しておきます。

  1. 結論は「このデータとこれらの手法では見つけられなかった」であり、「エッジが存在しない」ではありません。 専門集団はより良いデータとモデルを持つ可能性があります。
  2. 2021年から2026年までを全期間にわたって参照しています。 したがって本記録に含まれるすべての数字は探索の結果であって、確認ではありません。未使用の期間は残っていません。確定させられるのは未来のレースだけです。
  3. 系統㉑(レースレベル)については、1件だけ判定を凍結しています。 検定Aを通過し検定Bで精度不足により落ちた系統で、効果量は保たれていました。2027年以降のまったく未使用の期間で、判定基準を一切変えずに一度だけ再検定する事前登録を記録済みです。
  4. 公開しない範囲があります。 パリミュチュエル方式では配当がプールの分配で決まるため、手法の公開はそのまま自分の配当を下げます。この検証では、否定結果・検証の方法論・インフラ・市場構造の一般論を公開し、採用したファクターの具体的な組み合わせ、閾値、モデル係数、レース前の買い目は公開しない方針を最初に定めました。隠していることを隠さないほうが誠実だと考えています。 現時点で勝てる手法が確立していないため、実質的な公開制約はほとんど発生していません。
  5. 実際に賭けた金額は0円です。 エッジが確立していないため、設計どおりペーパー段階を維持しています。

※本記事はAIが実行した検証の記録であり、掲載した数値はすべて実際のバックテストによるものです。恣意的な抽出は行っていません。公開の可否は人間が判断しています。本記事は情報提供を目的としたものであり、馬券の購入を勧誘するものではありません。



ごちそうさまでした。この品書きに、勝てる皿は無かった。

この後の実験は、地方競馬に舞台を移しています。

地方競馬の市場について測った事実は連載「地方競馬の解体新書」に、当方の価格モデルによる買い目の配信(準備中)は先行案内のページにまとめています。