AIで回収率110%を目指す検証(第35回)|「なぜ負けたか」を市場は区別しない — 地方競馬で140%が見えた日【追記あり】

「なぜ負けたか」を市場は区別しない 実験ログ

この後どうなったか: 140.50%は、前向きの記録ではまだ確かめられていません。この買い目の中心の条件(乖離の上位5%の馬の複勝)だけを2010〜2024年の15年分で測ると、確定オッズで83.99%(2010〜2020年)と89.43%(2021〜2024年)にとどまり(第48回)、前走で枠が不利だった負け方の馬は、地方の全出走で見ると次走の単勝回収率が市場全体より3〜4ポイント低く、割り引かれすぎてはいませんでした(解体新書 第13回)。

一行で

複勝の「1.0倍の床」が作る価格の歪みに、「市場は負けた理由を区別しない」という2つ目の歪みを重ねたら、地方競馬・70レースで140.50%が出ました。まだ確かめていない数字です。


1. まず、複勝という馬券の話から

競馬の馬券にはいろいろな種類がありますが、いちばん当たりやすいのが複勝です。1着から3着までのどれかに入れば的中。3頭に1頭は当たる計算なので、初心者向けと言われます。

当たりやすいぶん、配当は安い。圧倒的に強い馬なら「1.1倍」といった値がつきます。100円買って110円返ってくる、ということです。

ここで制度上の壁があります。

複勝のオッズは、1.0倍を下回れません。

1.0倍は「賭けた金がそのまま返る」状態です。それ以下にすると胴元が損をするので、そこで止まります。これを元返しの床と呼びます。

2. 床があると、何が起きるか

圧倒的に強い1頭がいるレースを想像してください。その馬の「3着以内に入る確率」が仮に95%だとすると、本来のオッズは1.05倍くらいであるべきです。

でも床があるので、1.0倍を割れません。1.05倍でも1.02倍でも、表示は「1.0倍」に張り付きます。

さらに厄介なのは、2番手・3番手の馬まで巻き込まれることです。本当は「A > B > C」の力関係なのに、値段の上では「A = B = C = 1.1倍」に見えてしまう。

強い馬ほど、本当の強さを値段で表現できなくなる。

3. では、本当の強さはどこから分かるのか

単勝と馬連には、この床がありません。

単勝は「1着になる馬を当てる」馬券なので、強い馬でも2倍・3倍とつきます。馬連は「1着と2着の組み合わせ」なので、もっと幅があります。床という天井に押し付けられていないので、強さがそのまま値段に出ます。

だから、こうできます。

単勝のオッズ  → その馬が1着になる確率を逆算
馬連のオッズ  → その馬が2着以内に入る確率を逆算
        ↓
      「本来なら3着以内に入る確率は何%か」を計算
        ↓
   複勝のオッズが示している確率と比べる

この2つがズレている馬が、床のせいで安く放置されている馬です。 私たちはこのズレを「乖離」と呼んでいます。

3-1. 地方競馬のほうが、この歪みが大きい

床の厚さ(複勝オッズの最低値が1.3倍以下になるレースの割合)を実測すると:

割合
地方競馬 71〜79%
中央競馬(JRA) 45%

地方では10レース中7〜8レースで床が発生しています。中央は半分以下です。

理由は単純で、地方はプールが小さいからです。複勝の売上規模は中央の約19分の1。少ない資金に人気が集中すると、簡単に床まで押し込まれます。


4. ここまでで、まだ足りなかった

乖離だけで買うと、地方競馬で79〜83%でした。100%には遠い。

理由もはっきりしていました。乖離は構造的に人気馬を選びます。 人気馬の複勝は当たりやすいけれど、配当が安い。当たっても増えません。

そして今日、利益は人気薄側にしかないことが分かりました。

乖離が出す買い目の 83% は人気側 → 回収率 81%
残り 17% の人気薄側          → 回収率 109%

では人気薄だけ買えばいいかというと、そう単純ではありませんでした。人気薄には「本当に力が足りない馬」も混ざっているからです。


5. 2つ目の歪み — 市場は「なぜ負けたか」を区別しない

ここが今回の発見です。

競馬ファンは前走の着順をよく見ます。「前走8着だった馬」は人気を落とします。 これは自然な反応です。

しかし、負けた理由はレースごとに違います。

A. 力が足りなくて負けた       → 今回も苦しい
B. 大外枠を引いて不利だった    → 今回は関係ない
C. 体格で見劣りしていた       → 相手が強かっただけ
D. 好条件だったのに負けた      → これは本当に弱い

市場は、この区別をしません。「8着」という結果だけを見て、一律に人気を落とします。

だとすれば、「本来なら走れる条件だったのに負けた馬」は、割り引かれすぎているはずです。

実測すると、そのとおりでした

前走で負けた馬を、前走時点での体格の優位さで2つに分けました(レース内で標準化した相対値です)。

条件 体格が優位だった馬 そうでない馬 差
パターン1 90.37% 81.35% +9.0pt
パターン2 94.89% 78.46% +16.4pt
パターン3 86.11% 76.86% +9.3pt
パターン4 89.10% 77.70% +11.4pt

4通り試して4通りとも、体格が優位だったのに負けた馬のほうが良い。例外なしです。

前走の枠でも同じ構造が出ました(+9.7〜16.8pt)。

「なぜ負けたか」を市場は見ていない。だからそこに値段の歪みが残る。


6. 数字

2つの歪みを重ねて、執行可能な時点のオッズだけで作った買い目です。

70レース / 的中40本
回収率 **140.50%**(単勝6・複勝4の配分)
・払戻の上位5%を除いても **113.6%**

「上位5%を除いても」という数字を必ず出すのは、大穴1本で数字が作られていないかを確かめるためです。 過去に何度も、点推定が良く見えて、大きい払戻を数本抜いたら崩れた、という経験をしています。

単勝と複勝の配分

同じ馬の単勝と複勝を両方買います。配分を0%から100%まで振って計算しました。

基準 最適な配分 回収率
回収率を最大にする 単勝100% 162.29%
リスクあたりの効率を最大にする 単勝60% / 複勝40% 144.86%
資産の伸び(Kelly)を最大にする 単勝75% / 複勝25% 151.39%

推奨は単勝6・複勝4です。

単勝100%のほうが回収率は高いのですが、的中率が28.6%まで落ちます。7割のレースで無配です。複勝を4割残すと的中率が57.1%になり、効率はむしろ最良になります。

なお単勝と複勝の相関は0.527。同じ馬に賭けているので、分散は打ち消し合いません。「分散投資」ではなく「配当と的中率のバランス調整」だと理解してください。


7. まだ確かめていません

ここが最も大事な節です。

・これは「過去のデータを見ながら条件を探した」結果です(in-sample)
・200通り以上の組み合わせを試して、その中の最良値です
・70レースは6か月ぶん。統計的に決着させるには **あと10か月** かかります

200通り試せば、たまたま良く見える組み合わせは必ず出ます。 だから私たちは、まだ一度も見ていない期間を残してあります。そこで1回だけ当てて、それで決めます。

この記事は「見つけた」ではなく「候補が出た」という報告です。

8. 今日ここに来るまでに潰したもの

同じ日に、これだけ否定しました。

・締切1分前のオッズを使う   → 発表と締切が同時刻。物理的に買えない(583レースで実証)
・秒単位のライブ取得        → 12場すべてで届かない。中央値は締切の3分前
・前走のオッズ急落を使う     → 768通り試して候補ゼロ
・券種を変える(ワイド・馬連) → 土台が変わらず、ばらつきだけ増える
・「能力不足の人気薄」を外す  → 外すと悪化した。妙味の源泉ごと削っていた

否定の数のほうが圧倒的に多い一日でした。 残ったのは、上に書いた1つだけです。


9. なぜこの2つが「エッジ」になるのか(まとめ)

初心者の方に向けて、いちばん大事なところをもう一度。

馬券で勝つとは「強い馬を当てる」ことではありません。
「値段が間違っている馬を買う」ことです。

強い馬を当てるだけなら、1番人気を買えばよく、それでは控除率のぶん必ず負けます。

今回見つけたのは、値段が間違う理由が2つあるということでした。

① 制度の歪み   複勝には1.0倍の床があり、強い馬の値段を表現できない
② 人間の歪み   市場は「なぜ負けたか」を区別せず、着順だけで割り引く

①は制度が続く限り消えません。②は人間が判断を簡略化する限り消えません。 だから、もしこれが本物なら、しばらくは残るはずです。

もし本物なら。 それを確かめるのが、これからの10か月です。


この検証はすべて記録に残しています。うまくいかなかった実験も、実装のバグも、判断を間違えた経緯も含めて公開しています。

まだ味見の段階だ。評判は、通い詰めてから書こう。

この後の実験は、地方競馬に舞台を移しています。

地方競馬の市場について測った事実は連載「地方競馬の解体新書」に、当方の価格モデルによる買い目の配信(準備中)は先行案内のページにまとめています。