AIでJRAの回収率110%を目指す検証(第7回)|文献どおりにモデルを作り直したら教科書の数値が再現された。それでも市場には勝てない

文献どおりにモデルを作り直したら教科書の数値が再現された 実験ログ

第3回までで、予測モデルは市場に何も足せませんでした。ただしその後、作り方そのものが海外文献の推奨から外れていたことが分かりました。今回は構造と特徴量を根本から入れ替えます。結果として教科書に載っている数値がいくつも再現されましたが、市場への上積みは得られませんでした。

前提:何が間違っていたのか

第3回までのモデルには、二つの誤りがありました。

誤り1:構造

各馬について独立に「3着以内に入るか否か」を予測する二値分類を使っていました。

海外の代表的な研究(Bolton & Chapman, 1986)は、この方法を明確に否定しています。理由は「レース内の競争構造を捉えられていない」ことです。競馬は各馬が単独で基準を超えるかどうかの競技ではなく、出走馬同士が相対的に競う競技です。二値分類では、あるレースの3着以内確率を合計しても3にならず、馬同士が競っているという事実がモデルに入りません。

推奨されるのは条件付きロジットという構造です。レースを「出走馬の集合から1頭が選ばれる」という選択問題として定式化します。この形にすると、レース内の勝率の合計が自動的に1になります。

誤り2:特徴量

第3回までは、通算成績や条件別の勝率を中心に投入していました。しかし文献では、これらは統計的に有意でないとされています。

一方で最も効くとされるのはスピード指数です。過去の指数(t=4.96)と直近4走の平均指数(t=6.78)が、いずれも上位の説明力を持ちます。

そのスピード指数を、私たちは一度も作っていませんでした。

スピード指数を作る

走破時計をそのまま使うことはできません。距離、馬場状態、競馬場、その日の馬場の速さによって水準がまったく異なるためです。そこで三段階で正規化しました。

段階 内容
1 基準タイム — 競馬場×距離×芝ダートごとの中央値
2 馬場差 — 開催日×競馬場×芝ダートごとの基準からのズレ。その日そのコースが速かったか遅かったか
3 指数化 — 距離帯ごとの標準偏差で割り、平均50・標準偏差10に整える

これで「時計が速い」と「馬場が速かっただけ」を分離できます。

検証結果です。まず走破時計の変換が妥当であることを確認しました。

距離 件数 平均タイム
1200m 38,143 72.5秒
1600m 28,482 98.9秒
2000m 17,696 123.3秒
2400m 3,711 149.8秒

着順との対応も確認しました。

着順 平均指数
1着 56.6
2着 55.0
3着 53.5
5着 51.1
8着 47.7

完全に単調です。 指数の向きは正しく機能しています。

そして肝心の予測力です。前走の指数を5分位に分け、今回の複勝率を見ました。

前走の指数 件数 今回の複勝率
①低(37.5) 40,543 6.7%
②(46.4) 40,543 12.7%
③(50.3) 40,542 15.9%
④(53.7) 40,543 20.0%
⑤高(59.7) 40,543 21.9%

最下層と最上層で3.3倍の開きがあります。 全体の複勝率が約15%ですから、非常に強い特徴量です。文献が「最も効く」とした理由が数字で確認できました。

モデルを作り直す

構造を条件付きロジットに変更し、さらに学習方法も変えました。

通常は勝ち馬だけを使って学習しますが、文献は3着までの着順を使う方法を推奨しています。標準誤差が1着のみの場合から28.3%下がり、さらに3着まで使うと16.8%下がります。200レースが実質600レース分の情報量になる計算です。

教科書の数値が再現された

学習の結果、いくつか興味深いことが起きました。

特徴量 第3回まで 今回 文献の値
直近4走の平均指数 (未使用) t=68.13 最重要とされる
枠順 t=0.42 t=7.69 t=7.51
通算複勝率 主力として使用 t=−1.06 有意でない
距離 — t=0.00 —

枠順の再現がとくに印象的でした。 最初に投入したときは t=0.42 で、まったく効いていませんでした。しかし枠順の有利不利は競馬場ごとに逆転します。全コースを一括した項では相殺されて消えていたのです。そこで競馬場ごとに標準化したところ、t=7.69 になりました。文献の t=7.51 とほぼ一致します。情報は最初から存在しており、扱い方が間違っていただけでした。

通算複勝率が有意でないことも確認できました。文献の主張どおりです。第3回まで主力に据えていた特徴量が、実際には効いていなかったことになります。

距離の係数がちょうど0.00 になったのは、実装が正しいことの確認になりました。距離はレース内で全馬に共通するため、馬同士を比較する条件付きロジットでは構造的に効果を持ちえません。モデルはそれを正しくゼロにしています。

3着以内確率への変換

勝率を3着以内確率に変換する際、文献は重要な警告をしています。

古典的な変換式(Harville, 1973)は、私たちが採用した条件付きロジットとまったく同じ独立性の仮定に基づいています。したがって条件付きロジットで推定した後にこの変換をかけると、同じ仮定を二重に課すだけで情報が増えません。実測でも、1番人気の2着確率を33%過大に、人気薄を33%過小に評価することが報告されています。

そこでべき乗パラメータを持つ修正版を使い、そのパラメータをJRAのデータから推定しました。

パラメータ 推定値 参考
λ 0.712 素の変換式では1.0
τ 0.680 素の変換式では1.0

この2つの値の扱いについて、断り書きが要ります。

λとτは、モデルの勝率予測を3着以内の確率に変換するためのパラメータです。入力となる勝率予測がモデルの仕様に依存する以上、λとτも仕様によって動きます。実際、後の検証でペース関連の特徴量を加えたところ、同じ手順で (0.698, 0.666) という値が出ました。

また、この推定では標準誤差を算出していません。信頼区間のない点推定です。

したがって主張できるのは次の範囲に留まります。

  • 言える:λもτも1.0を大きく下回る。「素の変換式をそのまま使うのは不適切」という文献の指摘は、日本でも成立する
  • 言える:Benterの (0.81, 0.65) と同じ方向・同程度の水準にあり、独立に再現された
  • 言えない:小数点第3位の精度で「JRAの値はこれである」と断定すること

1.0から明確に離れています。 素の変換式が不適切だという文献の警告は、日本のデータでも正しいと確認できました。海外の研究者が別データで得た値(0.81, 0.65)にも近い水準です。この推定は、私が知る限り日本のデータでは公表例がありません。

結果:改善したが、上積みはゼロ

まず改善した点です。

第3回まで 今回 市場
1位的中率 22.7% 25.3% 32.3%

2.6ポイント改善しました。 構造と特徴量を入れ替えた効果です。

しかし本題はここではありません。このモデルが市場に情報を足せるかです。モデルの予測と市場のオッズを統合する際、機械にどちらをどれだけ信頼するか決めさせます。モデルに配分される重みが、上積みの大きさを表します。

段階 モデルの重み
第1回(粗い特徴量) −0.040
第3回(二値分類+通算成績) +0.042
今回(条件付きロジット+スピード指数) −0.046

動きませんでした。 むしろわずかに負に振れています。統合後の精度もほぼ変わりません。

なぜ精度が近いのに、上積みがないのか

ここが今回の本質的な発見です。

海外で成功した研究者の数値と比べてみます。

単体での市場に対する劣位 統合したときの上積み
海外の成功例(香港) 約18%劣る あり
今回(JRA) 11.7%劣る(より近い) ゼロ

私たちのモデルのほうが市場に近いのに、上積みがありません。 これは矛盾ではなく、重要な区別を示しています。

精度が市場に近いことと、市場が知らない情報を持っていることは、別の話です。

私たちのモデルが使っているのは、騎手、斤量、近走成績、馬体重、枠順です。これらはすべて、馬券を買う人々も見ている情報です。 同じ材料を上手に組み合わせても、できあがるのは「市場の劣化版」であって、市場が見落としている何かではありません。

海外の成功例に上積みがあったのは、その研究者が群衆の持っていない独自の指標を長年かけて作り込んでいたためです。

上積みを得るには、精度を上げるのではなく、群衆が見ていない情報を持つ必要があります。 これは今後の方針を決める上で決定的な違いです。

まとめ

項目 結果
構造の変更 二値分類 → 条件付きロジット
新規作成 スピード指数(複勝率で3.3倍の開き)
文献の再現 枠順 t=7.69(文献7.51)、通算成績は有意でない
新しい推定値 変換パラメータを (λ, τ) ≈ (0.70〜0.71, 0.67〜0.68) の範囲でJRAで推定(仕様依存・信頼区間なし)
1位的中率 22.7% → 25.3%(市場は32.3%)
市場への上積み ゼロ(重み −0.046)

モデルとしては明確に良くなりました。文献の知見が日本のデータでも成立することも確認できました。しかし目的である「市場を上回る」という一点については、前進していません。

次回は、群衆が定量化していない情報を探す試みについて記録します。


本記事はAIが下書きを生成し、人間が公開可否を判断しています。掲載した数値はすべて実データによる分析結果であり、恣意的な抽出は行っていません。本記事は情報提供を目的としたものであり、馬券の購入を勧誘するものではありません。

同じ材料で作れば、同じ味の、少し薄いものができる。

この後の実験は、地方競馬に舞台を移しています。

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