地方競馬の解体新書(第8回)|市場の構造と時間 — 控除・オッズ帯・プール間の関係・オッズが形になる時刻・締切の違い

市場の構造と時間 地方競馬の解体新書

— 控除・オッズ帯・プール間の関係・オッズが形になる時刻・締切の違い

今回の問い

ここまでの回では、馬・人・レースの側から地方競馬を見てきました。今回は市場そのものの形を見ます。控除率は実際にいくらか、オッズ帯ごとの回収率はどう分布しているか、複勝・ワイド・馬連という異なるプールは互いにどう違うか、オッズは発走の何時間前に形になるのか、締切は本当に「発走の何分前」なのか。

この回だけは新しい集計ではなく、私たちがこれまで事前登録して測ってきた市場の構造に関する記録を一つにまとめたものです。数字はいずれも確定オッズによる地図であり、買い目の主張ではありません。

1. 実効控除率は21.2% — オッズ帯を選ぶだけでは10ポイントしか取れない

地方ダート2021年1月〜2026年8月・673,019頭・64,031レース(1,000〜2,000m・8〜16頭)で、単勝オッズの逆数の合計(市場が示す確率の合計)の中央値は 1.2688 でした。実効控除率にして 21.2% です。

オッズ帯ごとに「実際の勝率 ÷ 市場が示す勝率」(比)と回収率を並べると、人気側の帯ほど比が高く(1.0〜1.5倍で 1.096)、100倍を超える帯では 0.583 まで落ちます。教科書どおりの「本命-穴バイアス」は実在します。しかし一番良い帯でも回収率は 85.0% で、元返しに15ポイント足りません。オッズ帯を選ぶという行為で取り返せるのは、控除率21.2%のうち10ポイント分にとどまる、というのが実測でした。2021〜2024年と2025〜2026年で形は同じで、競馬場別に見ても比は全部 1.00 前後です。

2. 複勝・ワイド・馬連 — 同じ馬でもプールごとに値段が違う

「複勝1点」と「その馬を軸にしたワイド総流し」は、的中する事象が同じです(軸馬が3着以内なら、ワイドは必ずちょうど2点当たります。実測で 99.98% 一致)。市場が正確なら、両者の回収率の差は控除率の差(1〜4ポイント)に収まるはずです。

実測は違いました。同じ軸馬10,753頭で、複勝が 91.6% に対して、ワイド総流しは 78.7%。差は −12.9ポイントで、控除率の差では説明できません。私たちの読みは、複勝のプールが軸馬を相対的に安く値付けしており、ワイドのプールはそこまで安くしていない、というものです(78.7% は地方ワイドの控除後の水準にほぼ等しい)。相手を選別すれば +7.4ポイント(下限 +1.8)取り返せることも実測しましたが、乗り換えで −13、絞りで +7 では差し引き −6 です。

馬連のプールは、単勝と複勝の乖離とはほぼ無相関(順位相関 −0.09〜−0.02)の独立した情報でした。ただし馬連が強く支持する組は的中が上がる分だけ配当が正確に下がり、回収率は動きません。「合意の強さ」の軸であって「市場の誤り」の軸ではない、と読めます。

3. 地方に「朝一オッズ」は無い

中央競馬では朝一番のオッズ(例えば8時40分時点)が全頭について公表され、それを起点にした分析が広く行われています。地方ではどうか。

地方の朝の発表は部分的です。発売直後は票の入った馬にしかオッズが付かず、最初に実オッズが出た時点で全頭のうちオッズがある馬は中央値で 22〜25% にすぎません。出走全馬にオッズが揃う発表は 97〜100% のレースに存在しますが、その最も早い時刻は中央値で発走の約4時間半前、発走2時間前までに揃うレースは 87% です。中央の意味での「朝一オッズ」(全頭・固定時刻)は、地方には存在しない、というのが実測です。地方で朝のオッズを使うなら、「全馬にオッズが揃った最初の発表」という別の定義を置く必要があります。

4. 締切に寄せても変わらない

締切直前まで待てば、より正確なオッズで判断できるはずです。私たちは判定時点を発走20分前から1分前まで段階的に寄せ、同じ選別規則の複勝回収率を並べました(134開催日・46,201頭)。

判定時点 複勝回収率 買える割合
発走20分前 83.3% 74.8%
発走5分前 90.2% 65.4%
発走3分前 91.6% 65.8%
発走1分前(7割が確定オッズと一致) 89.5% 14.6%

3分前が最大で、そこから先は上がりません。確定オッズそのもので買えたとしても 89.5% でした。オッズが形になるのは発走3〜5分前で、そこから締切までの動きは回収率を改善しません。執行を詰めることが答えではない、というのがこの梯子の示すところです。

5. 締切は「市場」ではなく「経路」で決まる

経路 締切 根拠
中央(即PAT) 発走1分前 JRA公式の案内
地方(即PAT経由) 発走2分前 同上
南関東(SPAT4) 発走1分前 主催者の案内
南関東以外(SPAT4) 発走2分前 主催者の案内・実測

同じ南関東のレースでも、SPAT4 なら1分前、即PAT なら2分前です。買う経路を決めないと締切は決まりません。 送信にかかる時間(実測で最大20秒程度)を引くと、地方では発走2分20秒前までに判断を終える必要があり、上の梯子で言えば「3分前」が実務上の限界になります。

6. 分かったこと・分からないこと

分かったこと
– 地方単勝の実効控除率は 21.2%。オッズ帯を選ぶだけでは10ポイントしか取り返せない(最良の帯で回収 85%)。
– 複勝とワイドは同じ事象で値段が違う(同じ軸で −13ポイント)。馬連は独立した情報だが回収率は動かさない。
– 地方に中央の意味での朝一オッズは無い。全馬が揃うのは中央値で発走4時間半前。
– オッズは発走3〜5分前に形になり、それ以上寄せても回収率は上がらない。確定オッズで買えても 89.5%。
– 締切は経路で決まる(1分前か2分前か)。

分からないこと
– プール規模(票数)の過去データが無いため、「プールの薄さ」と回収率の関係は前向きに積むしかありません。
– 複勝プールが軸馬を安く値付けする理由(誰が複勝を買っているのか)は、データからは分かりません。

予想への示唆

  1. 「オッズ帯」だけで買う規則は、地方単勝では原理的に黒字にならないと考えられます。狙うなら「帯の中で市場が間違えている馬」です。
  2. 複勝で見つけた優位を、ワイドや馬連に乗り換えて増幅する発想は、実測では成り立ちませんでした。券種ごとにプールの値付けが違うことを前提にしたほうがよいと思われます。
  3. 締切直前まで待つことに価値はほとんどないようです。発走3〜5分前に判断を終える設計のほうが、実務上も安全です。

次回(最終回): 「情報の台帳」— 地方競馬で取れる情報・取れない情報・買える情報を、公式データの列の単位で一覧にします。

複勝とワイドで、同じ優位がダブるわけじゃないんだな。

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