地方競馬の解体新書(第13回・第2部)|前走の負け方と次走の値段:言い訳の付く負けは買われすぎているのか

前走の負け方と次走の値段 地方競馬の解体新書

地方競馬の解体新書第13回第2部

言い訳の付く負けは買われすぎているのか(ばんえいを除く地方競馬・2010〜2024年ほか)

今回の問い

競馬新聞の短評や前走の回顧には、「展開が向かなかった」「枠が悪かった」「脚を余した」といった負けの理由を説明する言葉が並びます。こうした言い訳の付く負け方をした馬は次走で見直されることが多く、予想の定番の材料になっています。

今回確かめたいのは、その見直しが値段に対して正しいかどうかです。前走の負け方を5つの型に分け、次走の単勝を型ごとに全頭買ったときの勝率と回収率を並べます。あわせて2010〜2017年と2018〜2024年を比べ、市場の値付けが変わってきたかを見ます。後半では、人気薄の馬(大穴)という集団と、前走で締切直前に大きく見放された馬の次走も扱います。

データと方法

  • 対象は、ばんえいを除く地方競馬の全出走です。2005〜2024年の出走表から各馬の前走を作り、2010〜2024年の出走を集計しました。集計した出走は2010〜2017年が1,026,156走、2018〜2024年が933,656走です。
  • 前走の負け方は、そのレースが終わった後に分かる事実だけで5つの型に分けました(下の表)。一頭が複数の型に当てはまることもあります。
  • 次走は、単勝100円を型ごとに全頭へ買った場合の勝率と回収率で比べます。払戻は確定単勝オッズで計算した「地図」です。ただし型の判定に今走の人気やオッズを一切使っていないため、確定オッズで馬を選んだときに生じる上振れ(第10回で扱った問題)は入っていません。
  • 第1〜3節の集計には区間を付けていません。各型の件数は3万5千〜20万走あります。
前走の型 前走の中身
脚を余した 最後の600m(上がり3ハロン)のタイムがレース内で3位以内だったのに、4着以下に負けた
展開が不利 4コーナーで後方にいて4着以下に負け、しかもその日のその場は前に行った馬が残る日だった
枠が不利 外寄りの馬番で4着以下に負け、しかもその日のその場は内枠の馬が勝つ日だった
強い相手に僅差 出走馬の力の水準がその場の上位4分の1に入る強いレースで、勝ち馬から0.5秒以内の2着以下だった
期待を裏切った 過去の走りから見た力がレース内で上位2頭に入っていたのに、8頭以上のレースで5着以下に負けた

「力の水準」と「過去の走りから見た力」は、過去の走破タイムを場・距離・馬場でそろえた目安で、人気やオッズは使っていません。そのため「期待を裏切った」の期待は人気のことではなく、走破タイムから見た力の順位を指しています。

1. 前走の負け方ごとの次走

前走の型 2010〜2017 n 勝率 単勝回収率 2018〜2024 n 勝率 単勝回収率
全馬(基準) 1,026,156 10.15% 68.16% 933,656 9.95% 70.10%
脚を余した 115,804 6.82% 68.14% 107,400 6.39% 70.49%
展開が不利 207,009 4.29% 58.96% 185,996 4.12% 63.87%
枠が不利 160,751 5.85% 65.39% 144,647 5.87% 66.23%
強い相手に僅差 40,177 18.50% 83.43% 35,047 16.82% 77.53%
期待を裏切った 65,056 9.50% 82.95% 60,923 9.50% 79.48%
型が2つ以上重なった 129,443 6.13% 67.21% 116,737 5.90% 68.48%

市場全体の単勝回収率は68〜70%です。これを基準にすると、「展開が不利」の馬は2010〜2017年で9.2ポイント、2018〜2024年で6.2ポイント基準を下回ります。「枠が不利」も3〜4ポイント下回り、「脚を余した」は基準とほぼ同じでした。

反対に「強い相手に僅差」と「期待を裏切った」の馬は、2010〜2017年に15ポイント前後、2018〜2024年にも7〜9ポイント基準を上回っています。型が2つ以上重なった馬は67〜68%で、言い訳が多いことは次走の値段を良くしていません。

勝率の低さそのものは問題ではありません。どの型も前走で負けた馬なので、勝率が全馬より低いのは当然です。見るべきは、勝率に対して値段が高すぎるか安すぎるかを映す回収率のほうです。

2. 言い訳の付く負けと、見た目の悪い負け

5つの型は二つの組に分けて見ることができます。「展開が不利」「枠が不利」「脚を余した」は、負けの理由を馬の力以外に求められる負け方です。本稿ではこれを「言い訳の付く負け」と呼びます。「強い相手に僅差」「期待を裏切った」は、着順だけを見ると評価を下げたくなる見た目の悪い負け方です。

前の組は基準と同じか下回り、後ろの組は基準を上回りました。市場は言い訳の付く負けを大目に見すぎており、見た目の悪い負けを割り引きすぎている、と読めます。

ただし、この差をそのまま「言い訳の買われすぎ」と断定することはできません。「展開が不利」の馬は4コーナーで後方にいた馬なので、次走でも人気薄になる馬が多いと考えられます。第4節で見るとおり人気薄の馬は集団として回収率が低いため、低い回収率の一部は人気薄であること自体で説明できる可能性があります。逆に「強い相手に僅差」の馬は勝率18%前後と上位の馬が多く、人気馬寄りの集団です。同じオッズの馬どうしで型の効果を比べる集計は、本稿では未測定です。

二つの期間を比べると、差は縮んでいます。

前走の型 基準との差 2010〜2017 基準との差 2018〜2024
展開が不利 −9.2pt −6.2pt
枠が不利 −2.8pt −3.9pt
脚を余した ±0.0pt +0.4pt
強い相手に僅差 +15.3pt +7.4pt
期待を裏切った +14.8pt +9.4pt

「強い相手に僅差」の上乗せは半分になり、「展開が不利」の不足も3ポイント縮みました。市場がこうした負け方の読み違いを少しずつ直してきた可能性があります。ただし全馬の回収率も68.16%から70.10%に上がっており、市場全体の変化と切り分けて測ったものではありません。

3. 馬主になったつもりで持ち続ける場合

前走の型が次走の値段とずれているなら、その馬を追いかけ続けるとどうなるでしょうか。馬主になったつもりで、注目馬を持ち続ける計算をしました。

  • 前走で型が付いた馬を「持ち馬」に入れ、次走から出走のたびに単勝100円を買います。
  • その馬に入れた額を払戻が上回った時点(その馬だけの回収率が100%を超えた時点)で手放します。回収できないまま決めた走数に達したときも手放します。
  • 比較として、手放さずに5走買い続ける方法も計算しました。
  • 賭けた出走は2010〜2024年で、払戻は確定単勝オッズです。仕入れにも手放しにもオッズを使っていません。
仕入れの型 手放し方 2010〜2017 n 的中率 回収率 2018〜2024 n 的中率 回収率
強い相手に僅差 回収したら手放す・3走まで 82,608 14.8% 82.52% 68,363 14.1% 79.68%
強い相手に僅差 回収したら手放す・5走まで 107,627 13.5% 81.75% 88,836 13.0% 79.75%
強い相手に僅差 回収したら手放す・上限なし 250,550 9.9% 72.13% 208,723 9.7% 73.76%
強い相手に僅差 手放さず5走 127,439 14.9% 80.92% 104,384 14.2% 79.01%
期待を裏切った 回収したら手放す・3走まで 132,310 9.3% 79.35% 115,718 9.3% 80.75%
期待を裏切った 回収したら手放す・5走まで 172,294 9.0% 77.24% 149,579 9.1% 79.68%
期待を裏切った 回収したら手放す・上限なし 447,908 7.4% 67.12% 387,697 7.4% 70.29%
期待を裏切った 手放さず5走 195,687 9.9% 76.73% 170,140 10.0% 78.92%
展開が不利 回収したら手放す・3走まで 378,520 5.1% 61.87% 335,545 4.9% 66.07%
どれか1つの型 回収したら手放す・3走まで 632,588 7.3% 67.47% 571,190 7.0% 69.35%

最も良かったのは「強い相手に僅差」の馬を3走まで持つ方法で、2010〜2017年が82.52%、2018〜2024年が79.68%でした。黒字には17〜20ポイント届きません。

持つ期間を延ばすと回収率は下がり、走数の上限をなくすと72〜74%と市場全体の水準に近づきます。前走の負け方と値段のずれは、次の1〜3走のうちに消えていくと読めます。また同じ5走で比べると、回収したら手放す方法と手放さない方法の差は1ポイント未満でした。売り時の工夫は、回収率をほとんど動かしていません。

4. 大穴という集団と、前走で見放された馬

ここからは物差しが変わります。期間は2025年7〜12月と2026年7月1日〜8月14日(226開催日・7,233レース)で、馬の区分は締切3分前の単勝オッズ、つまり実際に買える時点の値段で行いました。払戻は実際の複勝払戻です。

締切3分前の単勝オッズ n 3着内率 複勝回収率 95%区間の下限
全馬 75,888 28.61% 71.30% (算出なし)
10倍以上(大穴の全体) 50,377 14.94% 67.08% 65.54
10〜18倍 10,076 29.19% 71.67% 69.86
18〜30倍 10,075 21.49% 75.01% 72.48
30〜53倍 10,075 13.35% 68.44% 65.12
53〜99倍 10,075 7.50% 68.00% 63.52
99倍以上 10,076 3.18% 52.27% 47.01

締切3分前に10倍以上だった馬は出走馬の3分の2を占め、複勝回収率は67.08%で全馬の71.30%を下回ります。99倍以上の大穴では52.27%まで下がりました。第5回では、直近5走がすべて下位で人気も常に薄い馬の複勝回収率が52%でした。期間も物差しも違いますが、大穴の底の値付けはどちらの切り口でも同じ水準に落ちています。

大穴の中を、締切前のオッズの動きで分けた結果が次の表です。

大穴(10倍以上)の中の区分 n 3着内率 複勝回収率 95%区間の下限
締切20分前から3分前に単勝が最も売れた5分の1 10,076 21.56% 68.57% 65.69
同じ時間に単勝が最も売れなかった5分の1 10,076 8.14% 60.07% 55.50
単勝に比べて複勝ばかり売れている5分の1 10,076 11.26% 60.55% 56.76
参考・締切後に分かる:締切3分前から確定までに最も買われた5分の1 10,076 28.65% 102.17% 98.66
参考・締切後に分かる:同じ時間に最も見放された5分の1 10,076 5.33% 47.38% 42.80

締切前に売れなかった大穴は60.07%で、ほかの4区分(68〜70%)を下回りました。単勝に比べて複勝ばかり売れている大穴も60.55%です。一方、何番人気かという人気順そのものは、大穴の中では回収率の差になりませんでした。

締切後の動きは強く効き、最後の数分に最も買われた5分の1は102.17%に達します。ただしこれは締切後にしか分からない量で、分かっていたとしても区間の下限は98.66%にとどまります。市場の最後の数分の資金は、来る大穴と来ない大穴をかなりの精度で見分けている、と読めます。

当方の検証では、この「最後の数分に見放される」ことが次のレースにも持ち越される様子も見えています。前走の締切直前に単勝オッズが大きく上がった馬は、次走でも3着内率が低く出ました。一方で、ここで見た「締切前に売れなかった大穴」の差は、オッズ以外の情報で馬を絞った後には見えなくなることもありました。生の母集団で効く特徴が、別の条件で絞った後にも効くとは限らないため、特徴ごとに測り直す必要があると考えられます。

分かったこと・分からないこと

分かったこと

  • 前走で「展開が不利」だった馬の次走の単勝回収率は59〜64%で、市場全体(68〜70%)を6〜9ポイント下回ります。「枠が不利」も3〜4ポイント下回ります。
  • 「強い相手に僅差」「期待を裏切った」の馬は78〜83%で、市場全体を7〜15ポイント上回ります。
  • この差は、2010〜2017年から2018〜2024年にかけて縮んでいます。
  • 注目馬を持ち続ける方法の最良は82.52%と79.68%で、黒字には届きません。持つ期間を延ばすほど市場全体の水準に戻ります。
  • 締切3分前に10倍以上の馬の複勝回収率は67.08%(n 50,377・3着内率14.94%)で、99倍以上では52.27%です。締切前に売れなかった大穴は60%でした。

分からないこと

  • 同じオッズの馬どうしで、負け方の型が回収率を変えるかは未測定です。第1〜3節の差の一部は、人気薄か人気馬かの違いで説明できる可能性があります。
  • 第1〜3節の集計には区間を付けていません。
  • 型は走破タイムと位置取りから当方が定義したもので、新聞の短評や関係者のコメントそのものを数えたものではありません。
  • 差が縮んだ理由が市場の学習なのか、出走馬の構成の変化なのかは分けていません。

予想への示唆

  1. 前走の短評にある「展開が向かなかった」「枠が悪かった」は、市場もすでに読んでいる材料と考えられます。値段に上乗せされすぎている可能性もあるため、見直しの根拠にするときは割り引いて読むほうが数字には合っています。
  2. 着順だけを見ると悪い負け方(力上位なのに大敗した、強い相手に僅差で負けた)のほうが、次走の値段に反映されにくい可能性があります。ただしその差は2018年以降に縮んでおり、次の1〜3走のうちに消えるようです。
  3. 大穴は集団として買われすぎており、締切前に売れなかった大穴は、狙う材料より消す材料に近いと考えられます。

次回(第14回): 回収率はどこまで信じられるか。標本の大きさ、区間、一度だけの答え合わせという3つの物差しで、数字の読み方を整理します。

言い訳の付く負けほど、みんなもう読んでいるんだな。

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