地方競馬の解体新書(第10回・第2部)|確定オッズと買える値段:バックテストの回収率はなぜ上振れするのか

確定オッズと買える値段:バックテストの回収率はなぜ上振れするのか 地方競馬の解体新書

地方競馬の解体新書第10回第2部

バックテストの回収率はなぜ上振れするのか(地方競馬・2025年7〜12月と2026年7〜9月の実測)

第2部のはじめに

第1部(第1〜9回)では、地方競馬の市場の地図を描きました。第1回では中央競馬と同じ物差しで予想のしやすさを比べ、第9回では取れる情報と取れない情報を一覧にしています。ただし第1部の地図に載せた回収率は、すべて確定オッズで計算したものでした。第2部では視点を変え、地方の市場で数字がどこまで信じられるのか、そして市場がどう変わってきたのかを測ります。最初に取り上げるのは、あらゆる回収率の土台になっているオッズそのものです。

今回の問い

競馬のバックテスト(過去のデータに買い方の規則を当てはめて回収率を計算すること)は、ほとんどが確定オッズを使っています。確定オッズは締切の後に決まる値段で、締切前に投票する人がその値段を見て買うことはできません。投票する人が見られるのは、締切の数分前に発表されたオッズまでです。

今回の問いは、確定オッズで計算した回収率と、実際に買える値段で計算した回収率がどれだけ違うかという点にあります。当方が地方競馬で締切前に記録してきたオッズを使い、このずれを単勝と複勝に分けて測りました。

データと方法

  • 判定時点のオッズ: 当方が締切前に取得して保存しているオッズです。取得した時刻と、そのオッズが発表された時刻の両方を記録しています。
  • 期間: 2025年7〜12月と2026年7〜9月です。測定ごとに期間と件数が違うため、表ごとに明記します。
  • 払戻: 特に断らない限り、主催者が公表した実際の払戻金で計算しています。
  • 「選ぶ値段」と「払われる値段」を分けて扱います。確定オッズで選んで確定オッズで払うのが一般的なバックテストの形で、判定時点のオッズで選んで実際の払戻を受け取るのが実際の投票の形です。
  • 例に出す買い方の規則は当方の検証で使ったもので、中身は書きません。見るのは規則の良し悪しではなく、同じ規則を別の値段で計算したときの差です。

1. 「締切60秒前のオッズ」の中身は4分前の発表

当方は締切の約60秒前にオッズを取得しており、取得時刻の中央値は締切の59.9秒前です。ところが2026年7月28日〜9月13日の1,676レース(47開催日)で、取得したオッズがいつ発表されたものかを突き合わせると、締切から見た古さの中央値は4.0分でした。

締切から見た発表の古さ 該当するレースの割合(日ブロック95%区間)
2分より古い 94.53%(92.1〜96.4)
3分より古い 56.15%(51.8〜60.4)
5分より古い 7.75%(3.5〜13.2)

原因は取得の遅さではありません。地方のオッズは連続して動く値ではなく、間隔を空けて発表される値です。取得そのものは中央値で0.1秒ほどで終わりますが、中身は直前の発表のままになっています。

締切の直前まで秒単位で取りに行っても、この壁は越えられませんでした。2026年7月28日〜8月13日の583レースで、締切前に掴めた最新の発表が締切の何秒前のものかを測ると、中央値は南関東(167レース)と南関東以外(416レース)のどちらも180秒でした。締切と同じ分の発表を掴めたレースは0件で、場別に分けても12場すべてで0.0%です。門別・園田・高知・佐賀は中央値120秒と他の場より速いものの、それでも締切の2分前の発表にとどまります。

地方で「締切直前のオッズ」と呼ばれているものの実体は締切の2〜4分前の値段であり、確定オッズとの間には数分ぶんの資金の動きが挟まっています。なお第8回で見たとおり、地方には全頭のオッズが固定時刻にそろう朝一オッズがありません。判定を締切に寄せても回収率はほとんど動かず、当方の検証では判定時点を5分前から3分前に寄せた差は+1.36ポイント(134開催日・11,386点→10,753点・片側95%下限−0.85)でした。確定オッズとほぼ同じ値段で買えたと仮定した場合でも、同じ規則の複勝回収率は89.53%(10,362点・的中率37.52%)です。

2. 選んだ馬の値段は締切までに下がる

この数分の間に何が起きるのかを、当方の検証で選んだ馬で確かめました。単勝の中穴帯で当方のモデルが選んだ125頭(2026年7月1日〜9月13日)について、確定オッズを判定時点のオッズで割った比を見ています。

頭数 確定÷判定時点(中央値) 下がった馬 10%以上下がった馬
当方の検証で選んだ馬 125 0.933 59.2% 40.0%
対照:同じオッズ帯の全馬 2,453 1.046 43.3% 未測定

同じ帯の馬は平均すると締切までにオッズが上がるのに、選んだ馬だけが下がっています。判定時点で割安に見えた馬には、締切間際の資金が乗ると読めます。

この値下がりは回収率に直接響きます。上の125点を「判定時点のオッズで払い戻される」と仮定して計算すると、回収率は109.5%(的中率15.2%)でした。実際の払戻で計算し直すと82.9%で、差は約27ポイントです。

別の単勝の例では、選んだ馬全体のオッズはむしろ上がっていました(確定÷判定時点の中央値1.078・下がった馬43.1%)。それでも2026年8月14日〜9月13日の524点(364レース・29開催日・的中率7.1%)で、判定時点のオッズで払う計算の103.6%は、実際の払戻では95.0%(日ブロック95%区間58.1〜135.7)に下がりました。平均のオッズの動きには表れず、当たった馬の値段だけが下がるという形です。勝つ馬に締切間際の資金が集まるためと考えられます。

遅い資金は情報を持つが、行きすぎる

締切前の数分に入る資金の性質は、市場同士を比べると見えてきます。2026年7月28日〜9月15日の1,293レース・13,375頭(47開催日)で、判定時点(締切の約3分前の発表)の市場と確定の市場の予測の誤差を比べました。当方のモデルは使っていません。

券種 予測の誤差(判定時点) 予測の誤差(確定) 差(片側95%下限)
複勝 0.648376 0.639209 +0.009167(+0.006365)
単勝 0.239647 0.230495 +0.009152(+0.006681)

誤差は対数損失で、小さいほど予測が正確であることを示します。確定の市場のほうが有意に結果を当てており、締切直前の資金は判定時点の価格に無い情報を持っています。単勝と複勝で差の大きさはほぼ同じでした。

締切までにどれだけ買われたか(確定÷判定時点の複勝オッズ)で馬を5つの群に分けると、次のようになりました。表の「比」は、実際の複勝率を市場の価格が示す確率で割った値です。1より大きければ、その市場は馬を安く見積もっていたことになります。

群 頭数 確定÷判定時点(中央値) 複勝率 判定時点の市場に対する比 確定の市場に対する比
最も買われた 2,675 0.6614 30.58% 1.3684 0.9107
2 2,675 0.8780 36.41% 1.1290 0.9967
3 2,675 1.0278 39.25% 0.9731 1.0288
4 2,675 1.2099 26.77% 0.8732 1.0675
最も見放された 2,675 1.6429 12.04% 0.6199 1.0311

判定時点の市場に対する比は1.3684から0.6199へ単調に下がります。判定時点の価格は、これから買われる馬を安く見積もり、見放される馬を高く見積もっていたことになります。一方で最も買われた群の確定の市場に対する比は0.9107で、確定の価格に対して約9%買われすぎていました。遅い資金は正しい方向に動くものの、行きすぎると読めます(この表は記述であり、測定前に判定の基準を決めた量ではありません)。

全馬のうち締切までにオッズが下がった馬は44.7%でしたが、別の当方の検証で判定時点に選んだ馬では80.4%が下がっていました。判定時点で割安に見える馬の多くは、割安なのではなく、まだ買われていないだけだと考えられます。確定オッズで選ぶバックテストでは、締切までに買われすぎて値段が崩れた馬が自動的に候補から外れます。判定時点にはその馬を見分ける手段が無いため、これが上振れの仕組みの一つになっていると考えられます。

3. 上振れの大きさは複勝で大きく、単勝で小さい

上振れには二つの入口があります。一つは「選ぶ値段」で、確定オッズを見て選ぶと、判定時点では選べなかった馬の集まりになります。もう一つは「払われる値段」で、払戻をオッズから計算すると実際の払戻と食い違います。

複勝は選ぶ値段だけで+12.86ポイント

2025年7〜12月と2026年7月1日〜8月14日(226開催日・7,233レース・75,888頭)で、同じ当方のモデルを使い、選別に使う値段だけを変えました。払戻はすべて実際の払戻です。

選別に使う値段 点数 的中率 回収率(実払戻) 片側95%下限
判定時点のオッズ(実際に買える) 18,702 39.9% 87.83% 85.78
確定オッズの下限 2,421 46.0% 100.69% 93.29
確定オッズの中央 16,645 37.6% 92.35% 89.71

確定オッズの下限で選ぶだけで回収率は12.86ポイント上がり、100%を超えました。確定の下限で選んだ2,421点のうち2,111点(87%)は判定時点でも選ばれていた馬です。確定オッズで選ぶことは、判定時点の候補の中から結果の良かったほうを拾う操作になっていました。

複勝の確定オッズには下限と上限の幅があり、どちらの端を使うかでも数字が変わります。確定の下限は判定時点の複勝オッズより中央値で23%低く(比0.7692)、実際の払戻は確定の下限の中央値で1.10倍でした。払戻まで確定オッズで代用すると、次のようになります。

選別に使う値段 的中率 払戻=実払戻 払戻=確定の下限 払戻=確定の中央
判定時点のオッズ(18,702点) 39.9% 87.83% 74.17% 104.38%
確定の下限(2,421点) 46.0% 100.69% 87.34% 110.07%

判定時点で選んで実際の払戻を受け取る形では87.83%ですが、確定の下限で選んで確定の中央で払う計算では110.07%になります。同じモデルで22.24ポイントの差です。確定オッズだけで組んだバックテストの数字は、右下の110.07%に近い形で示されている場合が少なくないと考えられます。

単勝は選ぶ値段のずれがほぼゼロ

単勝で同じ比較をすると、選ぶ値段によるずれはほとんど出ませんでした。

較正に使った期間 判定時点で選んだ点数 確定で選んだ点数 回収率の差(確定で選ぶ−判定時点で選ぶ)
134開催日(2025年10〜12月と2026年7〜8月・締切約3分前の判定) 1,406 1,109 −2.48pt
38開催日(2026年8月15日〜9月23日・締切120秒前の判定) 454 305 +4.62pt
点数で重み付けした値 −0.74pt

単勝のずれが小さいのは、勝った馬の値段の動きが小さいためと考えられます。上の134開催日では、1着馬の確定÷判定時点の単勝オッズは中央値で0.93〜0.96(約5%の目減り)で、複勝の目減り(17〜26%)よりずっと小さい値でした。

ただし単勝でも、払う値段のずれは残ります。第2節の二つの例(約27ポイントと8.6ポイントの下落)は、どちらも単勝で「判定時点のオッズで払う」計算をしていたために生じたものでした。さらに、オッズ帯で絞る規則(第2節の125点と同じ規則)では、単勝でも確定オッズで選ぶと114.7%(262点・的中率16.0%)、判定時点で選ぶと82.9%(125点・的中率15.2%)と大きく開いています。単勝なら選ぶ値段のずれが小さいとは、規則を問わず言えるものではないと考えられます。

4. バックテストを読むための点検表

ここまでの実測を、回収率の数字を見るときの点検表にまとめます。

点検する項目 上振れする側 当方の実測での大きさ
選別に使った値段は確定オッズか判定時点のオッズか 確定オッズで選ぶ 複勝 +12.86pt/単勝 −0.74pt(規則によっては単勝でも大きく開く)
払戻は実際の払戻か、オッズからの計算か 判定時点のオッズで払う計算 単勝 +8.6〜+26.6pt
複勝の払戻は実払戻か確定オッズの下限か中央か 確定の中央で払う計算 複勝 +16.55pt
選ぶ値段と払う値段の両方が確定オッズか 両方とも確定オッズ 複勝 +22.24pt(87.83%→110.07%)
「判定時点」は取得の時刻か発表の時刻か 取得の時刻で呼ぶ 60秒前に取得した中身は中央値4.0分前の発表
判定した時刻にその経路で投票できるか 締切後の値段を含む 締切は経路で1分前か2分前(第8回)
点数・的中率・期間・区間が添えてあるか 回収率だけを示す 未測定(数字の信頼度そのものが判断できない)

一つ目の問いは「確定オッズか、判定時点か」です。地方の複勝では、この一点だけで回収率が10ポイント以上動きます。100%を少し超える程度のバックテストは、実際に買える値段では100%を割っている可能性があります。

5. 分かったこと・分からないこと

分かったこと
– 地方で締切の約60秒前に取得したオッズの中身は、中央値で締切の4.0分前の発表だった(1,676レース)。締切の直前まで取りに行っても最新の発表は中央値180秒前で、締切と同じ分の発表は583レース中0件だった。
– 当方の検証で選んだ馬は、締切までにオッズが下がる割合が同じ帯の全馬より高かった(59.2%対43.3%)。
– 単勝で判定時点のオッズで払う計算をすると、実際の払戻より8.6〜26.6ポイント高く出た。
– 複勝は確定オッズの下限で選ぶだけで実払戻でも12.86ポイント上振れし、払戻まで確定の中央で代用すると差は22.24ポイントになった。
– 単勝の選ぶ値段によるずれは、点数で重み付けして−0.74ポイントとほぼゼロだった。
– 締切直前の資金は判定時点の価格に無い情報を持つ。ただし最も買われた群は、確定の価格に対して約9%買われすぎていた。

分からないこと
– 複勝の+12.86ポイントは母集団全体で測った値で、規則やレースの局面ごとに同じ大きさかは未測定です。
– 判定時点のオッズが残っているのは2025年7月以降だけで、それより前の年に同じずれがあったかは測れません。
– 締切直前の資金がどんな投票者のものかは、データからは分かりません。

予想への示唆

  1. 地方の複勝で確定オッズを使って計算された回収率は、10ポイント以上高く出ている可能性があります。100%を少し超える程度の数字は、買える値段では届いていないと考えたほうが安全です。
  2. 単勝は選ぶ値段のずれが小さいものの、払戻を判定時点のオッズで計算していないかは確かめる必要があります。当たり馬券の値段だけが下がるため、平均のオッズの動きでは見抜けないと考えられます。
  3. 判定時点で割安に見える馬の多くは、これから買われる馬と考えられます。締切までに値段が下がる前提で期待値を見積もるほうが、実際の成績に近づく可能性があります。

次回(第11回)は「複勝という券種」を取り上げ、地方で複勝の払戻がどう決まっているのかを1番人気が3着内に残る率から見ていきます。

焦るんじゃない。確定オッズは、買えたオッズじゃない。

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