地方競馬の解体新書(第9回・第1部の最終回)|情報の台帳 — 地方競馬で取れる情報・取れない情報・買える情報の一覧と、連載のまとめ

情報の台帳 地方競馬の解体新書

— 地方競馬で取れる情報・取れない情報・買える情報の一覧と、連載のまとめ

この回の位置づけ

第1回から第8回まで、地方競馬という市場を「当てやすさ」「情報の非対称」「クラス」「来歴」「本気度」「枠と脚質」「人」「市場の構造」の順に解剖してきました。第1部の最終回となる今回は、二つのことをします。一つは、地方競馬の予想に使える情報を項目ごとに「取れる・取れない・買える」で一覧にすること。もう一つは、全9回の事実を一枚にまとめることです。

1. 情報の台帳

私たちが使っている公式データ(中央は JRA-VAN 系、地方は地方競馬全国協会系)を項目ごとに突き合わせました。「無い」は公式データに無いという意味で、主催者が個別にウェブで公表しているものは別途確かめる必要があります。

情報 中央 地方 地方での扱い
出走表・着順・タイム・上がり3F・通過順 あり あり 同じように使える
確定オッズ・払戻 あり あり 同じ
締切前のオッズ(時系列) あり あり(ただし発売直後は票のある馬にしか付かない) 「全馬が揃う最初の発表」で定義し直す必要がある(第8回)
調教(追い切りタイム・コース) 坂路・ウッドの全頭タイム 無い 代用なし。調子は前走の内容・馬体重・間隔で近似する(第2回)
馬場状態 状態コード+含水率・クッション値 状態コードのみ 含水率は無い。馬場で本命の固さは変わらない(第1回)
馬体重・増減 あり(89.7%) あり(98.4%) 地方では増減がほとんど効かない(第1回・第2回)
出走間隔・乗り替わり・前走成績 算出できる 算出できる 乗り替わりは方向で読む(第7回)
脚質 通過順から算出 通過順から算出(短距離は最初のコーナーが3〜4) 逃げは織り込まれた上で勝つ(第6回)
クラス・組 全国共通の条件コード 名称の文字列(場ごとに書式が違う) 正規化が要る。組の意味も場で違う(第3回)
所属(調教師の所属場) あり 調教師マスタから作れる 遠征は地区の内側の話(第4回)
中央での出走歴 — 中央のデータと突き合わせて作れる 出走馬の58%が元中央馬(第4回)
騎手・調教師・馬主の成績 あり あり 寡占が強く、成績が持続する(第7回)
血統 あり あり 本連載では扱っていない
票数(プールの規模) 過去分まで 最近の分だけ 過去に遡れないため前向きに積むしかない
公式のマイニング予想 あり 列はあるが中身は未確認 未確認
コンピ指数・JRDB などの外部指数 あり(有料) 無い 予想家の共通の物差しが無い市場
出走手当 — 無い(主催者ごとに公表) 手で表にする必要がある(第5回)
パドック・返し馬の評価 外部にあり ほぼ無い 代用なし

地方に無いのは、調教・含水率・外部指数・出走手当・パドックの5つです。逆に、中央には無くて地方で作れるのが「中央での出走歴」で、これは地方特有の重要な情報です。

2. 全9回の事実(一枚のまとめ)

回 事実
第1回 当てやすさ 1番人気の勝率は中央 33.5%・地方 44.1%。市場の対数損失は 1.92 対 1.56 で地方のほうが当てやすい。勝ち馬オッズの中央値は 4.6倍 対 3.1倍で、当てやすい分だけ配当が薄い。市場は両方ともほぼ正確に校正されている
第2回 情報の非対称 地方に調教データは無い。前走の内容・馬体重・間隔・乗り替わりが地方でどれだけ効くかを見ると、馬体重は効かず、連闘の本命は最も強い(80%)。市場の確率に公開情報を足したときの改善は地方が中央の3倍(織り込み残し)だが、大きさは小さい
第3回 クラス クラス記号は場の内側でしか意味を持たず、同じ記号で1着賞金に2倍以上の差。組は多くの場で組1が最上位だが例外がある。昇級初戦は勝率14.6%だが市場も知っている。同条件の1番人気は最も弱い(38.4%)
第4回 来歴 地方の出走馬の58%は元中央馬。転入初戦〜3戦目は勝率18〜19%で生え抜きの2倍だが市場も知っている。転入11戦目以降は生え抜き以下。地区外遠征は0.3%しかなく、遠征は地区の内側の話。南関東は所属場の力関係が出る
第5回 本気度 常に下位で走り続ける馬は地方の出走馬の1割弱。市場はその馬を穴として過大に値付け(複勝回収52%)。賞金の安い場に多い。減量騎手への乗り替わりは最も弱い。高齢馬は地方に8倍
第6回 枠と脚質 外枠有利は実在するが中央でも同じで、市場は織り込んでいる。小回りの短距離に集中し、大井・川崎には無い。地方の逃げ馬は27%(短距離34%)勝ち、馬場が悪いほど勝つ。逃げ馬の1番人気は60%勝つ
第7回 人 騎手の寡占は中央の1.3〜1.7倍。馬主1者で勝利の4割の場もある。寡占が強い場ほど本命が固い。騎手・調教師の複勝回収は地方で持続する(中央の2倍)。乗り替わりは方向で読め、差は中央の3倍
第8回 市場 実効控除率21.2%。オッズ帯を選ぶだけでは10ポイントしか取れない。複勝とワイドは同じ事象で値段が違う(−13ポイント)。地方に朝一オッズは無い。オッズは発走3〜5分前に形になり、確定オッズで買えても89.5%。締切は経路で決まる

3. 地方競馬を中央の延長で考えている読者へ — 最初に押さえること

  1. 地方は当てやすく、儲けやすくはない。 本命は固く(44%)、配当は薄く(中央値3.1倍)、市場は正確に校正されています。当てやすさは市場の未熟さではなく、レースの構造(頭数・間隔・顔見知り・逃げ)によるものと考えられます。
  2. 中央の物差しをそのまま持ち込まない。 休み明けはほぼ存在せず、馬体重減は効かず、馬場状態は本命の固さを動かしません。使えるのは乗り替わり(それも方向で)です。
  3. 出走馬の6割は元中央馬。 転入直後は強く、市場も知っています。10戦を超えた元中央馬に肩書きの上乗せを期待する根拠は弱いようです。
  4. クラスは場ごとに読み替える。 同じ「C2」で賞金が2倍違います。組の意味も場で違います。
  5. 市場が「使い切っていない」情報はある。 公開情報の織り込み残しは中央の3倍、騎手・調教師の成績の持続は中央の2倍、常に下位の馬の過大な値付けは明確です。ただし、どれも控除率21.2%を埋めるほどの大きさではない、というのが私たちの実測です。

4. この連載で扱わなかったこと・次

  • 血統、距離適性、天候(気温・風)、ナイター、レース番号帯、牝馬限定戦、交流重賞での地方馬。
  • 各回で見た差が「締切前の値段で買えるか」は、この連載では一切扱っていません。それは事前登録した検証として、別のシリーズ(「AIで回収率110%を目指す検証」)で一つずつ確かめていきます。
  • 出走手当の表と、中央側の調教・外部指数の価値の数値化は、続編の課題です。

連載「地方競馬の解体新書」の第1部はここで一区切りです。第2部では、同じ市場を「締切前に実際に買えた値段」で測り直しています(第10回から)。各回の数字は2021〜2025年の公式データによる記述統計で、確定オッズの地図です。買い目は一つも含んでいません。事前登録した検証の記録は、別シリーズで続きます。

当てやすいのと儲かるのとは、別の料理だったか。

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