地方競馬の解体新書(第5回)|本気度の経済 — 「常に下位で走り続ける馬」の割合と市場の値付け(中央競馬との比較・2021〜2025年)

本気度の経済 地方競馬の解体新書

— 「常に下位で走り続ける馬」の割合と市場の値付け(中央競馬との比較・2021〜2025年)

今回の問い

地方競馬を馬主の側から見ると、レースに出す理由は一つではありません。賞金を積み上げて上のクラスへ行きたいのか、次の目標に向けた調整なのか、あるいは出走そのものに伴う手当を得るために、着順を度外視して走らせているのか。「全てのレースで全ての馬が本気で勝ちに来ているわけではない」という前提は、地方競馬に長く関わる人ほど強く持っています。

この前提は、どのくらい数字で裏づけられるのでしょうか。馬主の意図はデータに残りません。出走手当の額も公式データにはありません。今回はそれらの代わりに、データから作れる代理変数で「本気度」に近づきます。

データと方法

  • 対象: 地方13場(帯広を除く)と中央(平地10場)・2021年1月〜2025年12月。同じ定義で両市場を並べます。
  • 代理変数: 直近5走の平均着順・平均人気・最高着順、直近の出走間隔、馬齢、負担重量、乗り替わりの種類(継続/非減量騎手へ/減量騎手へ)、1着賞金を出走頭数で割った額。
  • 直近5走が揃う馬だけを集計対象にした表があります(地方 515,871頭=76%、中央 109,525頭=48%)。地方のほうが揃う割合が高いのは、出走間隔が短いためです。
  • 回収率はすべて確定オッズによる「地図」で、買い目の主張ではありません。

1. 「常に下位で走り続ける馬」はどれだけいるか

直近5走がすべて6着以下で、その5走の平均人気が8番人気以下の馬を「常に下位・大穴」と呼びます。さらに、直近の出走間隔が14日以内であれば、短い間隔で走り続けている馬です。本稿ではこれを「手当稼ぎ型」と名付けますが、意図を確かめたわけではなく、あくまで履歴の型の名前です。

履歴の型 地方の割合 勝率 3着内率 複勝回収(確定) 中央の割合 勝率 複勝回収
常に上位(平均着順3.5以内) 15.0% 19.6% 50.1% 76% 10.3% 16.8% 78%
中間 75.6% 7.0% 25.0% 71% 78.6% 6.8% 75%
常に下位・大穴 5.0% 1.8% 7.5% 52% 9.0% 0.8% 71%
手当稼ぎ型(常に下位 かつ 間隔14日以内) 4.4% 1.1% 6.0% 52% 2.1% 1.3% 64%

地方の出走馬の 4.4% が「常に下位で、2週間以内にまた走る」馬でした。常に下位の馬まで含めると 9.4% です。中央にも「常に下位」の馬は 9% いますが(未勝利を走り続ける馬)、中央では間隔が長く、2週間以内に走り続ける馬は 2.1% にとどまります。

数で言えば、「本気で勝ちに来ていない可能性のある馬」は地方の出走馬の1割弱です。ただし、その馬が調整なのか手当のためなのかは、この代理変数では区別できません。

2. 市場はその馬をどう値付けしているか

注目したいのは複勝回収率の列です。地方の「常に下位」「手当稼ぎ型」の馬は、平均オッズが140〜150倍と大穴でありながら、複勝回収率が 52% しかありません。中央の同じ型の馬は64〜71%です。

地方の市場は、常に下位の馬を中央より過大に値付けしている、と読めます。「大穴だからたまに来る」という期待が、地方ではほとんど報われていません。予想の材料としては、狙う側ではなく消す側の情報として最も明確な部類ではないかと考えられます。

3. どの場に多いか — 賞金の安い場ほど短い間隔で走る

場 手当稼ぎ型 常に下位(間隔は問わない) 1着賞金÷出走頭数(万円)
名古屋 8.4% 3.5% 4.6
門別 7.6% 3.6% 4.9
高知 5.5% 2.8% 5.9
佐賀・水沢・盛岡 4.2〜4.5% 2.6〜4.7% 3.9〜4.5
大井 3.7% 11.2% 11.7
浦和・川崎・船橋 2.0〜3.0% 5.9〜9.0% 11.4〜13.8
笠松・金沢 1.8〜2.7% 1.8〜2.3% 4.7〜4.9

1着賞金を頭数で割った額(一頭あたりの取り分の目安)が小さい場ほど、短い間隔で走り続ける常に下位の馬が多い傾向が見えます。南関東は賞金が3倍大きく、常に下位の馬自体は多い(大井で11%)のですが、間隔が長い。賞金が安い場では、出走そのものに経済的な理由がある可能性がある、という読みとこの数字は整合します。ただし出走手当の額は本稿で扱っておらず、これは見立てにとどまります。

4. 「本気で来ていない馬」が多いレースは、本命が固くなるか

もし一部の馬が最初から勝負に加わっていないなら、実質的な頭数が減り、本命が固くなるはずです。確かめました。

レース内の手当稼ぎ型の頭数 レース数 1番人気の勝率 3着内率
0頭 50,728 43.8% 75.5%
1頭 11,157 44.6% 76.0%
2頭 3,510 46.1% 78.1%
3頭以上 1,317 45.3% 76.4%

差は1〜2ポイントで、効果は小さいものでした。第1回で見た「地方は本命が固い」(44% 対 34%)を、本気で来ていない馬の存在だけで説明することはできないようです。

5. 馬齢・減量騎手・負担重量

地方 中央
8歳以上の出走馬の割合 7.4% 0.9%
8〜9歳 / 10歳以上の勝率 6.8% / 5.6% 1.6% / —
減量騎手への乗り替わり(勝率・複勝回収・1番人気の勝率) 5.5%・65%・38.1% 4.1%・68%・35.2%
主戦騎手の継続(同上) 10.7%・71%・44.0% 8.9%・73%・33.6%
負担重量52kg以下(勝率・複勝回収) 5.9%・61% 5.3%・68%

高齢馬は地方に8倍多く、10歳以上でも5.6%勝ちます。中央の感覚で高齢馬を切ると、地方では切りすぎになりそうです。

減量騎手への乗り替わりは、両市場で最も弱い区分でした。地方では1番人気になっても38.1%しか勝ちません(継続なら44.0%)。主戦騎手から減量騎手へ替わるという選択が、陣営の力の入れ方を映している可能性があります。

6. 分かったこと・分からないこと

分かったこと
– 「常に下位で走り続ける馬」は地方の出走馬の1割弱(短い間隔の馬が4.4%、常に下位の馬まで含めて9.4%)。中央は2.1%と9.0%。
– 地方の市場はその馬を中央より過大に値付けしている(複勝回収52% 対 64〜71%)。
– 賞金の安い場(名古屋・門別・高知・九州・岩手)ほど、短い間隔で走り続ける常に下位の馬が多い。
– そうした馬が多いレースでも、本命はさほど固くならない(+1〜2ポイント)。
– 減量騎手への乗り替わりは両市場で最も弱い。高齢馬は地方に8倍多く、10歳以上でも5.6%勝つ。

分からないこと
– 出走手当の額は主催者ごとに公表されていますが、本稿では扱っていません。「1着賞金÷手当」を場ごとに出すのは次の課題です。
– 「調整」と「手当のための出走」は代理変数では区別できません。
– ここで見た差が締切前の値段で買えるかどうかは、この地図では分かりません。

予想への示唆

  1. 直近5走がすべて6着以下で人気も常に薄い馬を「そろそろ来る穴」として扱う根拠は、地方ではほとんど見当たりません(複勝回収52%)。消す側の材料として使えそうです。
  2. 減量騎手への乗り替わりは、地方でも中央でも減点方向に働いています。
  3. 中央の感覚で高齢馬を切ると、地方では切りすぎになる可能性があります。

次回: 「枠順とコース」— 外枠は本当に有利なのか。場・距離・馬場状態ごとに、人気で補正した上で確かめます。

来そうで来ない穴は、そっと皿の端によけておこう。

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