地方競馬の解体新書(第1回)|地方競馬の予測可能性は中央競馬とどう違うか — 2021〜2025年・83,533レースの同一指標による比較分析

地方競馬の予測可能性は中央競馬とどう違うか 地方競馬の解体新書

— 2021〜2025年・83,533レースの同一指標による比較分析

この連載の問い

地方競馬(NAR)は、中央競馬(JRA)と比べて予想しやすいのでしょうか、しにくいのでしょうか。それはなぜでしょうか。

私たちは1年以上、地方競馬を主戦場にして「回収率が安定して100%を超える買い方」を探してきました。事前登録した検証を積み重ねるほど見えてきたのは、地方競馬は中央の延長ではないということです。クラスの仕組み、賞金の水準、ローテーション、情報の量、市場の厚み——どれも中央と違う力学で動いています。ところが、その違いを一つの物差しで並べて確かめた資料は、探してもほとんど見つかりませんでした。

この連載では、地方競馬という市場を章立てで解剖していきます。第1回は土台です。中央と地方を同じ定義・同じ期間で並べ、「当てやすさ」に関わる20の切り口から見ていきたいと思います。

データと定義

中央 地方
期間 2021年1月〜2025年12月 同じ
対象 平地10場・異常区分なし・着順あり 帯広(ばんえい)を除く13場・同じ条件
レース数 16,651 66,882(うち南関東4場 16,532)
使うオッズ 確定単勝オッズ 同じ

すべて確定オッズを使った「地図」です。買い目や回収率の主張は含みません(確定オッズは締切後にしか分からず、買えない値段だからです)。

1. 本命の固さ — 地方は10ポイント固い

中央 地方 南関東 他地方
1番人気の勝率 33.5% 44.1% 40.3% 45.4%
1番人気の3着内率 64.9% 75.7% 72.5% 76.8%
1〜3番人気の勝率の合計 66.4% 77.3% 73.6% 78.5%
1〜3番人気が3着内を独占するレース 9.1% 15.2% 12.1% 16.3%

地方では1番人気が44%勝ちます。中央より10ポイント高く、8割近いレースが上位3番人気のどれかで決まります。南関東はやや中央寄り(40%)、それ以外の地方はさらに固い(45%)という差もあります。

「市場がどれだけ結果を当てているか」を一つの数字にしたのが対数損失です(小さいほど当てている)。中央 1.917 に対して地方 1.563。市場自身が、地方のレースを中央より明らかによく当てています。

2. 配当の裾 — 当てやすい分だけ薄い

中央 地方
勝ち馬の単勝オッズ(中央値) 4.6倍 3.1倍
勝ち馬の単勝オッズ(平均) 9.8倍 7.0倍
単勝万馬券(100倍以上)の発生率 0.82% 0.46%
単勝10倍以上の馬の勝率 2.33% 2.37%

勝ち馬の半数は3.1倍以下。万馬券は中央の半分しか出ません。ただし「単勝10倍以上の馬が勝つ確率」は両市場で同じ2.3〜2.4%です。穴馬の勝ち方が違うのではなく、穴馬が勝ち馬になる機会そのものが少ない、という解釈がこの数字には合っているように見えます。

3. 市場は下手なのか — 両市場ともほぼ正確に校正されている

「地方は市場が未成熟だから当てやすい(=歪みが大きい)」という説明をよく見ます。確かめました。オッズから計算した各馬の「市場の勝率」と、実際の勝率を区分ごとに並べます。

市場の勝率の区分 中央の実際の勝率 地方の実際の勝率
2〜5% 3.3% 3.2%
5〜10% 7.2% 7.2%
10〜20% 14.0% 14.0%
20〜30% 25.0% 24.0%
30〜40% 34.6% 34.6%
40〜50% 44.7% 45.8%
50〜70% 61.4% 63.2%

両市場とも、市場の見立てと実際がほぼ一致しています。唯一のずれは50%を超える大本命で、市場の見立てより5ポイントほど多く勝ちます(これは中央でも同じです)。地方が当てやすい理由を市場の未熟さに求めるのは、この数字とは合いません。レースそのものの不確実性が小さいことによる可能性が高い、と考えられます。

4. なぜ不確実性が小さいのか — 構造の違いという見立て

中央 地方 読み
出走頭数(平均) 14.3頭 10.5頭 4頭少ない
出走間隔(中央値) 35日 16日 2週間おきに走る
中1週以内で出走する割合 13.9% 40.6%(他地方 50.0%) 他地方は半分が中1週以内
休み明け(60日以上)の割合 32.5% 6.6% 中央の「休み明け」は地方にほぼ無い
直近3走で対戦済みの相手の割合 10.3% 26.3% 相手の4分の1が顔見知り
逃げ馬(最初のコーナー先頭)の勝率 16.7% 28.2% 逃げが1.7倍勝つ

地方の馬は2週間おきに、同じ相手と、少ない頭数で、小回りのコースを走ります。力関係が既に分かっている相手が4分の1いて、前に行った馬が3割勝つ。予想が当たりやすい条件が、レースの作り方に埋め込まれている、と読めます。 ただし、これらの構造の違いが当てやすさの差をどれだけ説明するかは、本稿では分解していません。

5. 中央の物差しは地方で通用するか — 一つずつ確かめる

物差し 中央 地方 地方で使えるか
馬体重の大幅減(−10kg以下)の3着内率 16.8%(平均比 −6.5pt) 28.6%(平均比 −0.8pt) 使えない。 地方では大幅減がほとんど効かない
乗り替わりの3着内率(あり/なし) 19.8% / 26.0% 26.0% / 31.5% 使える。 両市場で −5〜6pt
乗り替わりの頻度 63.0% 42.5% 地方は主戦騎手が続く
馬場状態別の1番人気勝率(良→不良) 33.5 → 34.0%(重で36.3%) 44.6 → 43.9% 地方は馬場で本命の固さが変わらない

中央の予想でよく使う「休み明け」「馬体重減」「馬場状態」の物差しのうち、地方でそのまま使えるのは乗り替わりだけでした。この5年間の数字では、休み明けはそもそもほとんど存在せず、馬体重減は効いておらず、馬場状態は本命の固さを動かしていません。

6. 分かったこと・分からないこと

分かったこと
– 地方は中央より当てやすい(1番人気 44% 対 34%、対数損失 1.56 対 1.92)。
– 当てやすい分だけ配当が薄い(勝ち馬オッズの中央値 3.1倍、万馬券率 0.46%)。
– 市場は両方ともほぼ正確に校正されている。当てやすさの正体は市場の未熟さではなく、レースの構造(頭数・間隔・顔見知り・逃げ)にあると考えられる(本稿の範囲での見立て)。
– 中央の物差しのうち、地方でそのまま使えるのは乗り替わりだけ。

分からないこと(次回以降)
– 騎手・調教師の寡占は場ごとに測り直す必要があります(今回は13場を合算したため低く出ています。南関東だけなら上位5騎手が勝利の35%を占めます)。
– 中央で綿密に提供される情報(調教、ローテーション、調子、馬場・天候)が、地方でどこまで存在し、どこまで結果を説明するか — 第2回のテーマです。
– ここには買い目が一つもありません。「市場に無い情報」があるかどうかは、章ごとに事前登録した検証で確かめていきます。

予想への示唆

  1. 地方では本命を疑うより、本命同士の組み合わせで配当を作る方向が、数字の上では自然に見えます(8割が上位3番人気で決まる)。
  2. 馬体重の大幅減は、地方では減点材料として働いていないようです。乗り替わりは両市場で減点方向に働いています。
  3. 「休み明け」という概念は地方にはほぼありません。代わりに「2週間おきに同じ相手と走る」を前提にするほうが、実態に近いと思われます。

次回: 「中央で綿密に提供されている情報は、地方ではどうなるのか」— 調教・ローテーション・調子・馬場天候の情報の非対称を、同じ期間・同じ定義で確かめます。

……同じ競馬でも、ここは時間の流れ方が違うんだな。

この連載の分析をもとにした、地方競馬の買い目の配信を準備しています(先行案内)。公開開始のお知らせは X でも行います。