— 地方13場の出走馬の来歴と成績(2021〜2025年・675,752頭)
今回の問い
地方競馬を語るとき、「他場遠征」と「中央からの転入馬」は必ず出てくる論点です。遠征馬は割引なのか、転入馬はどれだけ強いのか、市場はそれを知っているのか。今回は出走馬の来歴を二つの軸で数えます。一つは所属(どの場の調教師に預けられているか)と出走場の関係、もう一つは中央競馬での出走歴です。
データと方法
- 対象: 地方13場(帯広を除く)・2021年1月〜2025年12月・66,883レース・675,752頭(着順あり)。
- 所属は調教師の所属地域(調教師マスタ)で判定しました。判定できた出走が99.3%です。南関東(浦和・船橋・大井・川崎)、岩手(盛岡・水沢)、東海(名古屋・笠松)、兵庫(園田・姫路)は、それぞれ一つの「地区」として扱います。
- 転入は、その馬が当該レースより前に中央競馬(JRA)で出走していたかで判定しました。中央のデータは出走日だけを使い、着順は読んでいません。
- 回収率はすべて確定オッズによる「地図」で、買い目の主張ではありません。
1. 「他場遠征」は、地区の外ではほとんど起きていない
| 場 | 地元の調教師 | 同じ地区の他場から | 地区の外から |
|---|---|---|---|
| 大井 | 97.3% | 2.6% | 0.1% |
| 川崎 / 浦和 / 船橋 | 78 / 79 / 83% | 22 / 21 / 17% | 0.1〜0.3% |
| 盛岡 / 水沢 | 31 / 68% | 68 / 32% | 0.9 / 0.1% |
| 姫路 | 0%(調教地は園田・西脇) | 99.7% | 0.3% |
| その他7場 | 96〜99.9% | 0〜3.5% | 0.1〜0.6% |
地区をまたぐ遠征は全出走の0.3%(1,916頭)しかありません。地方の「遠征」は、実態としては地区の内側で起きています。 南関東では出走馬の2割前後が同じ地区の他場から来ており、岩手では盛岡と水沢を行き来するのが普通です。大井だけは例外で、大井所属の馬はほとんど大井からしか出走せず、他場からも入ってきません。
遠征区分ごとの成績は、地元(勝率 9.9%・複勝回収 70%)、地区内の他場(9.7%・73%)、地区外(12.2%・74%)で、差は小さいものでした。「遠征馬は割引」という通念を、この数字は支持していないように見えます。
南関東の内側を所属場ごとに見ると、力関係が出ます。
| 所属場 → 出走場(3着内率) | 浦和 | 船橋 | 大井 | 川崎 |
|---|---|---|---|---|
| 浦和所属 | 27.3% | 15.1% | 19.1% | 19.4% |
| 船橋所属 | 35.2% | 31.2% | 24.9% | 28.7% |
| 大井所属 | 26.8% | 30.6% | 24.6% | 34.1% |
| 川崎所属 | 27.4% | 17.9% | 15.2% | 28.0% |
船橋所属の馬は浦和で35%、大井所属の馬は川崎で34%の3着内率です。逆に川崎所属や浦和所属の馬は、船橋・大井に行くと15〜19%まで落ちます。南関東は「4場が一つの経済圏」でありながら、所属場の水準差が遠征成績に現れている、と読めます。
2. 地方の出走馬の6割は「元中央馬」
当該レースより前に中央で出走した経験のある馬は、全出走の 58.4% でした。南関東で41%、それ以外の地方では65%です。地方競馬の主役は生え抜きではなく、中央から降りてきた馬だという事実は、予想の前提として押さえておく必要があります。
転入してからの戦数で分けると、成績は次のようになります。
| 転入の段階 | 頭数 | 勝率 | 3着内率 | 1番人気になる率 | 1番人気の勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 生え抜き(中央歴なし) | 281,348 | 8.8% | 27.4% | 7.9% | 43.8% |
| 転入初戦 | 20,307 | 18.7% | 42.2% | 22.2% | 47.8% |
| 転入2〜3戦目 | 39,489 | 18.1% | 42.3% | 23.3% | 50.2% |
| 転入4〜10戦目 | 106,177 | 13.4% | 36.7% | 15.1% | 45.2% |
| 転入11戦目以降 | 223,547 | 7.3% | 25.7% | 6.3% | 38.5% |
| 交流競走(中央所属のまま出走) | 4,884 | 14.4% | 39.9% | 14.5% | 39.6% |
三つのことが読み取れます。
転入直後の馬は、生え抜きの2倍勝つ。 転入初戦から3戦目までの勝率は18〜19%です。中央で通用しなかった馬でも、地方の下級条件では能力の水準が違うためと考えられます。
市場はそれを知っている。 転入初戦〜3戦目の馬は22〜23%が1番人気に支持され、その1番人気は48〜50%勝ちます(地方全体の1番人気は44%)。「転入馬は狙い目」と言うだけでは、市場の見立てをなぞっていることになりそうです。
元中央馬の優位は、時間とともに消える。 転入11戦目以降の馬は勝率7.3%で、生え抜き(8.8%)を下回ります。1番人気になったときの勝率も38.5%と、全区分で最も低い。「元中央馬」という肩書きは転入直後の資産であって、地方で10戦以上走った馬には残っていない、と読めます。
3. 転入馬の優位は、どこで大きいか
| 区分 | 転入初戦の勝率 | 転入初戦の1番人気の勝率 | 転入初戦の複勝回収(確定) |
|---|---|---|---|
| 南関東 | 14.3% | 39.8% | 67% |
| 他地方 | 20.0% | 49.5% | 76% |
| クラス C | 20.1% | 49.7% | 74% |
| クラス B | 16.4% | 43.6% | 71% |
| クラス OP・A | 14.9% | 45.5% | 67% |
転入馬の優位は、南関東より他地方で、上級条件より下級条件で大きい。南関東は生え抜きの水準が高く元中央馬の比率も低いため、転入馬が相対的に目立たないと考えられます。南関東の転入初戦は複勝回収67%で、確定オッズの地図でも他の区分より低い数字でした。
人気別に見ると、転入初戦の複勝回収は1番人気で91%、2〜3番人気で77%、4〜6番人気で67%、7番人気以下で61%と、人気順どおりに下がります。市場は転入馬を人気順どおりに値付けしており、人気薄の転入馬が来やすいという事実はありません。
4. 交流競走の中央所属馬
中央所属のまま地方のレースに出走する馬(交流競走)は4,884頭でした。勝率14.4%・3着内率39.9%で、1番人気になったときの勝率は39.6%と低めです。一方、確定オッズで計算した回収率は単勝84%・複勝81%で、今回のどの区分より高い数字でした。本命に推された交流馬は期待ほど勝たず、人気薄の交流馬は期待より来ている、という読み方ができますが、頭数が少なく、確定オッズの地図であることから、これ以上のことは言えません。
5. 分かったこと・分からないこと
分かったこと
– 地区をまたぐ遠征は0.3%。遠征は地区の内側(南関東4場・岩手2場・兵庫2場)で起きている。
– 南関東は所属場の水準差が遠征成績に出る(船橋・大井所属が強く、川崎・浦和所属は他場で弱い)。
– 地方の出走馬の58%は元中央馬。転入初戦〜3戦目は勝率18〜19%で生え抜きの2倍だが、市場も知っている。転入11戦目以降は生え抜きより弱い。
– 転入馬の優位は他地方・下級条件で大きく、南関東・上級条件で小さい。
分からないこと
– 中央でどの水準(未勝利か、1勝クラスか)から降りてきたかで転入馬を分けていません。今回は中央の着順を読まない設計にしたためです。
– 遠征・転入の情報を締切前の値段で買えるかどうかは、この地図では分かりません。
予想への示唆
- 「遠征馬」を割引の材料にする根拠は、この5年間の数字からは見当たりません。南関東では所属場(船橋・大井か、川崎・浦和か)のほうが手がかりになりそうです。
- 転入直後の元中央馬は強いが、市場も知っています。転入から10戦を超えた元中央馬に、肩書きの分の上乗せを期待する根拠は弱いようです。
- 地方の出走馬の6割が元中央馬であることを前提にすると、「中央での実績」はどの馬にもある程度付いてくる情報であり、それ自体で差がつくものではないと考えられます。
次回: 「本気で勝ちに来ているのか」— 賞金・出走手当・着順度外視という、馬主から見た地方競馬の経済を数えます。
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